MasaichiYaguchi

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
「タンジェリン」のショーン・ベイカー監督の最新作は、「夢と魔法の王国」に隣接し、同様にパステルカラーで彩られた紛いものの「ワンダーランド」に住む母子のドラマを描いていく。
この母子は若くしてシングルマザーとなったヘイリーと6歳の娘ムーニーなのだが、定住する家が無く、フロリダ・ディズニーワールドの側のモーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしを送っている。
ヘイリーは幼い子を抱えているとはいえ未だ20代なのに、本人の能力や性格の問題なのか定職も無く、ホームレス寸前の人間らしい刹那的な生き方をしている。
そんな母親を持ちながらも、娘のムーニーは同じモーテルに住む似たような境遇の子供たちと様々な悪戯を繰り返しながら、明るく近辺を飛び回って伸び伸びと遊んでいる。
本作は、このムーニーという6歳の女の子の視点を通して、彼女や母親を含めた今のアメリカ社会、その矛盾や歪みを浮き彫りにする。
「夢と魔法の王国」では中流意識の家族連れが様々なアトラクションやイベントを楽しむ中、それに隣接した紛いものの「ワンダーランド」でも子供たちが元気に駆け回ったり冒険したりしているが、彼女らの遊び場は俗悪な建物群や廃墟や雑草が生い茂った空地だ。
子供らの親たちは、定職に就いていても家を買うどころか、ちゃんとしたアパートを借りることさえ出来ない。
そして皮肉なことに彼らが住むモーテルの近くには、サブプライム・ローン問題で打ち捨てられた一戸建て群があったりする。
この作品を観ていると、均等に与えられる機会を活かし、勤勉と努力によって勝ち取ることの出来るものとされる「アメリカン・ドリーム」が現代において如何に幻想なのかということを強く感じる。
一旦社会から零れ落ちると中々負の連鎖から抜けられず、ずっと「ワーキングプア」な人生を送ることになってしまう。
綱渡りのようなことで糊口を凌いでいたヘイリーとムーニーの親子だが、あるトラブルから事態は収拾のつかない方向に転がっていく。
この母子を演じたブリア・ビネイトと子役のブルックリン・キンバリー・プリンスが余りにリアルなので感情移入してしまう。
そして、この母子を含めてモーテルの住人を優しく保護するように見詰め、対応する管理人ボビー役のウィレム・デフォーが人間味溢れる演技で魅了する。
急転直下の終盤からラストへ向けての展開は、夢と厳しい現実、希望と絶望との狭間を突き抜けていくようなエネルギーを感じた。