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マーウェンのpicaruのレビュー・感想・評価

マーウェン(2018年製作の映画)
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『マーウェン』

ロバート・ゼメキス監督の映画。
これ、すっごく観たかった映画なんだ。
でも、上映館が少なくて観逃してしまった。
今なら言える。
『マーウェン』を上映していた数少ない映画館はもっと評価されるべきだ、と。

バーからの帰り道、暴行事件に巻き込まれ、重傷を負ったマーク・ホーガンキャンプ。
彼は事件後もPTSDの後遺症に悩まされ、唯一の救いが空想の世界“マーウェン”で繰り広げられるフィギュアの撮影だった。

この映画のジャンルはいったい何になるのだろうか?
ヘイトクライム、精神障害、ジェンダー問題を扱った社会派ドラマ。
フィギュアの趣味に没頭するオタクを描いた特撮映画。
現実と空想の世界を行き来するファンタジー。
全部当てはまるなんて信じられるだろうか。
ロバート・ゼメキスが生み出した異色作。
まるで彼の脳内に潜り込んだみたいだ。

主人公のマークを演じたスティーヴ・カレルの演技に惹き込まれる。
地に足のついた演技でマークの孤独と葛藤を繊細に表現し、周りに少しずつ心を開いていく様子は、マーク本人だけでなく、マークに関わる人々を鮮やかに浮かび上がらせる。

最初、フィギュアの世界を忠実に再現することは、暗くなりがちなテーマを曖昧にぼかし、観客を少しでも明るい気分にさせようと工夫するロバート・ゼメキスの優しさかな、と思っていた。
しかし、マークのシェルターとしての役割を担っていた“マーウェン”が現実とリンクしていくにつれ、根強いPTSDの症状を浮き彫りにし、彼自身の内面をより立体的に描き出していると気付き、ハッとさせられた。
“マーウェン”に現実の問題を連れ込んでしまうことにはかえって良い面もあって、“ここ”から変えればいい、と発想の転換ができるんだ。
自分の中にしかない想像の世界で、自分の周りの世界を創造するヒントを手に入れる。
ファンタジーこそ、リアリズムだ。

どうしてもあのシーンについて語りたい。
タイムマシンが登場するシーンだ。
これは、ロバート・ゼメキスの映画なんだ。
『Back To The Future』のロバート・ゼメキスの映画なんだ!!
心が勝手に舞い上がる!!

ワンダーウーマンなマーウェンドールたち。
“マーウェン”のメンバーを模型の車に乗せて、犬の散歩のように連れて歩く主人公。めちゃくちゃかわいらしい(笑)
そして、靴のモチーフ。
さすがロバート・ゼメキス。
細かい所まで映画ファンを喜ばせてくれる。

幸運なことに、マークの周りには彼を受け入れてくれる心優しい人たちがいる。
趣味や価値観を否定せず、時には寄り添って話を聴く。
職場の人と、友人の話をするかのように“マーウェン”のキャラクターについて話をする様子には感動してしまった。
これからもマークは強く生きていくだろう。
想像も創造もできるのだから。
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