猫脳髄

夜の流れの猫脳髄のレビュー・感想・評価

夜の流れ(1960年製作の映画)
3.7
成瀬巳喜男と川島雄三のダブル監督という珍しい作品。プロデューサー藤本真澄の提案で実現したというが、世代も異なるホームドラマとコメディの名手のケミストリーにより、なかなかユニークな作品が誕生した。もっとも、期間の制限で撮影を急がなければならなかったという現実的な事情もあったようである。主に成瀬がセット撮影、川島がロケ撮影と役割分担したとのこと。

成瀬モノとしては、「流れる」(1956年)以来の花柳界を舞台にした作品で、前作が柳橋芸者の退潮を映し出したのに対して、本作では(明言はされないが)華やかな夜の銀座を背景にした新橋の芸者置屋と料理屋を舞台にしている。カラー作品であることや、水谷八重子(当時は良重)の登用により派手でコメディ色が強く、一見成瀬調の情緒が薄れているようだが、実は「流れる」とストーリー構造を似せつつ、人間関係をすべて反転させるような面白い設計になっており、芯の部分はやはり成瀬調である。

料理屋の雇われ女将である山田五十鈴と司葉子母子を中心に、もう一つの舞台である芸者置屋の主人・三益愛子のもとには水谷八重子、草笛光子、星由里子に市原悦子(自殺未遂を繰り返す若芸者!)が揃う。このほか、山田と抜き差しならない関係にある板前の三橋達也、司の親友の令嬢・白川由美(この2人が揃うシーンは眼福…)、その父で料理屋のパトロン・志村喬、芸者たちに人気の呉服屋・宝田明、草笛に付きまとう元夫・北村和夫、そして意外な役で登場する越路吹雪と出演者は華やかで騒々しい。

シットリしたいつもの成瀬調ではないが、これはこれで面白い。必ずしも巷間言われる失敗作とは思わない。

(ナイトクラブで演奏しているバンドのボーカルがかまやつひろしのような気がするけど、ノンクレジットだしわかんない🥺東宝では「檻の中の野郎たち」(1959)に出演しているようだし…)
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