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007/ノー・タイム・トゥ・ダイのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
王道スパイアクションのリビルド完結編
ありがとう&お疲れ様に尽きる

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現役を退いたジェームズ・ボンドは、ジャマイカで穏やかな日々を過ごしていた。ある日、彼のもとに旧友でもあるCIAエージェントのフェリックス・ライターがやって来て、誘拐された科学者を救い出してほしいと依頼する。

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最初は賛否両論だったダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドも5作目。気づけば15年に及ぶ人気シリーズ。いまや寡黙でタフで美しい、イアン・フレミングの原作に最も近いボンドとの評価もある。ダニエル・クレイグを一躍世界的なスターに押し上げた作品群であると共に、007シリーズを再定義した傑作シリーズもいよいよおしまい。コロナ禍で何度も公開が延びてしまったのもあって、否が応でも期待値が上がっちゃう(((o(*゚▽゚*)o)))

見はじめて早々に後悔した。公開延期してるうちに過去作の復習してから見に行くべきだったわー。少なくとも前作「スペクター」は見直すべきだった。なんならここまでの過去4作見直してから挑むべきだった。失敗したー(;´Д`A こんなに過去作とガッチリ連なった話だと思ってなかったよ。


もはやパロディのモチーフにすらされない時代遅れの老シリーズに新解釈を与え、見事にリブートを成し遂げたダニエル・クレイグ版007。名もない青年が007になり、時代遅れの老兵となるまで。引退してグレート余生を送るはずが、消せない罪悪感や自身の運命と対峙してく……シリーズを俯瞰するとダニエル・クレイグの実人生のこだまにも思えて感慨深い。新米から中堅〜ベテラン、去りゆく老兵の最後の戦いにふさわしいラストシーン。予想外の締め方すぎて、しばらく呆然とした。

ボンドガールのマドレーヌ演じたレア・セドゥ。自分には「デススト」のフラジャイル役がもっとも身近。ミステリアスで心を閉じた佇まい。弱々しい一面もありながら、守られるヒロインじゃない。かといって男勝りに敵をぶっ殺して回るわけでもない。自らの因縁に立ち向かう姿はボンドのそれとも似通って見えて、新しいパートナー像とも思えた。ボンドガールに子供がいるってのも、歴代で初じゃなかろうか。

蛇足かと思われたキューバ編で一番の見ものはパロマ。ちょっと抜けた美人かと思いきや…な活躍ぶりが目覚しかった。演じたアナ・デ・アルマスといえば「ブレードランナー2049」のAI彼女ジョイ。ダニエル・クレイグとは「ナイブズ・アウト」以来の共演だけど、全然印象が違うので同一人物だと後で調べて驚いた。

アッシュこと崩れCIAで胡散臭い爽やか笑顔が印象的だったビリー・マグヌッセン。どこかで見た覚えがあるなと思えば「マネーショート」のイケイケ不動産ディーラーか。生身の人間なのに、CGみたいな不気味の谷を感じさせる笑顔がヤベエ。
あとジェフリー・ラッシュは出演作のほとんどで酷い目にあってる印象。今作でもやっぱり酷い目にあってて安心するやら、可哀想やら。


監督は「世界一ジェームズ・ボンドっぽい映画監督」として俺にお馴染みキャリー・フクナガ。うっとりするほど男前なのに加えて、耽美な映像美センスと、裏腹な暗く悲しい語り口が特徴に思える。(あんまり監督作を見てないので傾向がわからない)

歴代ボンドカーの中で最も多く登場しているアストンマーチン。中でもDB5を登場させるあたりシリーズ愛溢れてる。他にも歴代ボンドオマージュな要素が見え隠れ。自分なんぞよりもっと詳しい人がゴロゴロいるので、解説や読み解きは先輩諸兄に任せたい。それよか子供心に戻って、スパイガジェットの数々にキャッキャッ言って盛りがるが吉だ。ベン・ウィショーのQが今作でも珍奇なガジェットを用意してくれるのみならず、メガネ&エプロンのサービスショットも眼福。


ラストにふさわしい優雅で感動的な傑作だけど、難点はなんといっても上映時間の長さ!164分はなげえ!
あれもこれもと欲張った感がハンパない。原則1話完結の007シリーズにあって、ガッツリ前作との連なるダニエル版007。最後の最後で大風呂敷を畳むのに苦労してる感もある。いや、今までずっと散らかして放置してたことを、最後の最後に回収しようとする姿勢こそ賞賛すべきかも。(でもあんな目に合うためだけに引っ張り出されるクリストフ・ヴァルツなんて見たくなかった)、
あと日本要素が唐突かつ必然性に欠けて見える。能面は神性と悪魔性両面のメタファーだろか。少なくと復讐の鬼と化したサフィンの脱人間宣言だろうし、絶対に復讐をやり遂げる決意も見て取れる。

秘密基地の場所は新時代の東西冷戦の最前線かつノーマンズランドって意味なのかしら。インテリアやサフィンの服装とかカッコいいけど、ひと昔前のハリウッド映画のトンチキ日本描写ぽくもある。監督が自身のルーツを織り込みたかったのかもしれない。

ツッコミどころが多いのもご愛嬌。ブロフェルドが厳重に監禁されてるようで、面会時は生身ほぼ丸出しなのどうかと思うし。ついでに、サイクロプスこと隻眼のアイツ。しれっと仕えるボスを鞍替えしてて笑う。元からサフィンの部下で、スペクターに潜入してた説もあるけど、潜入するメリットがよく分からない。

スパイ映画あるあるを悉くなぞって、なんならセルフパロディに見えてきちゃう。(敵の銃弾は当たらないが、ボンドの銃弾は百発百中/カーチェイスが始まると街から人が消える/捉えたボンドをすぐに殺さず、秘密をベラベラ喋るラスボスetc..)自嘲でもあるし、ツッコミどこ含めて愛おしい。これこそ007って気もする。

長年に渡って新たなボンド像を模索し続け、ただの有能なスパイじゃない、弱さも欠点もある新世代ボンドを作り上げたダニエル・クレイグに賞賛と感謝!


64本目
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