TaiRa

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のTaiRaのレビュー・感想・評価

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1980年の光州事件にまつわる実話をベースにエンタメ的に脚色した作品。

冒頭はタクシー運転手ソン・ガンホの生活を描く。学生運動の混乱に辟易する中、ある学生のせいで車のミラーが破損。その学生に怒り狂うがそこへ出産間近の妊婦が客としてやって来る。運転手は妊婦を乗せタクシーを走らせる。この時点で彼が自分の問題よりも困った人や客を優先させる人間だと分かる(金の為でもあるが)。こういった選択をこの後何度も迫られる。ドイツ人ジャーナリストを光州へ送る最中の喜劇的なやり取りも面白い。光州に入ってからは段階的にシリアスさが増して行く構成。ここでも一人逃げようとする運転手が老婆の為にUターンして病院へ送り届ける。病院や集会、デモの現場を通して事の重大さをやっと認識する。光州で何が起こっているかを観客も順番に理解して行く作り。軍と市民との衝突がどんどん悲惨な状態になって行く中、運転手は家に残した娘が心配で早く帰りたい。運転手が葛藤を重ねるごとに映画自体のエモーションも高まる。劇中2度目のUターンをするシーンが良い。ジャーナリストに向かって言う「私はタクシー運転手であなたはお客さんだ」という非常にシンプルな言葉が名台詞になる。その前に彼を鼓舞する為に言った「あなたはジャーナリストでしょ」とセットになってる。クライマックスは味付け濃い目のエンタメ感で楽しませる。タクシー運転手仲間のツラ構えが最高な点も良い。

映画を観終わるとモデルになった運転手の所在が気になる。韓国でこの映画が公開された後、運転手の子供が名乗り出たという。彼は1984年にガンで亡くなっていたと判明した。
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