MasaichiYaguchi

女の一生のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

女の一生(2016年製作の映画)
4.0
ギイ・ド・モーパッサンの名作を「母の身終い」「ティエリー・トグルドーの憂欝」のステファヌ・ブリゼ監督が映画化した本作を観ていると、「人生いろいろ」という演歌を思い出してしまう。
原作小説は学生時代に読んでいて、邦洋画共に何度も映画化されているので、何作かは過去に鑑賞しているが、ステファヌ・ブリゼ監督の本作は現代にも通用するように“再構築”しているように感じられる。
「母の身終い」や「ティエリー・トグルドーの憂欝」の主人公は逆境にいて、その中で自分の信念を貫く姿が描かれていたが、本作のヒロイン・ジャンヌは、ある意味“究極”の逆境に追い込まれていく。
彼女の場合、現代女性と違って自分の意志で恋愛や結婚、そして職業においても選択肢がなく、両親を中心とした家族の意向で人生が定められてしまう。
ある意味、大海に浮かぶ小舟のように人生を翻弄されてしまう訳だが、それにしても様々な意味でジャンヌは男運が無い女性だと思う。
この“だめんず”によって親友と思っていた乳姉妹や伯爵夫人に裏切られ、頼みとする神父の助言は裏目に出て、夫との間に出来た嫡子を溺愛するも、後に彼女は愛息から手痛いダメージさえ与えられる。
だからといって彼女は何とかその状況を変えようと動く訳でもなく、どんなに酷い運命でも恰も神から与えられた試練と考えて生きていく。
そんな彼女を精神的に支えるのは、過去の美しく楽しい思い出の数々。
映画は逆境にいる彼女のシーンを暗い寒色で、思い出のシーンを明るい暖色で彩って強いコントラストを成していく。
この受け身の人生を送るジャンヌは傍から見ると弱い女性のように感じられるが、決してそうではないと思う。
身体が凍えるような逆境にあっても、彼女はそれに静かに耐えて自分が正しいと思ったことを貫こうとしている。
それは荒野のような所に凛と立つ彼女の姿によく表れていると思う。
そして訪れる何とも言えないラストのシークエンス。
そこで乳姉妹のロザリがジャンヌに掛ける言葉がいつまでも心に残る。