都部

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂの都部のレビュー・感想・評価

2.8
手段こそ変わり種ではあるが紛れもなく王道の青春映画。酷薄で空虚な現実を現実として受け止められなかった人間が、その拒絶を正当化する体の良い言い訳として出現する比喩的存在と立ち向かうという筋書きは最高に厨二的で青臭いのでだいぶ好き。作品全編に渡って浸透する『ダサさ』はそのまま世界や人生の等身大のショボさとして作用しており、しかしそのダサさを振り翳してあるべき自己を確立するべく足掻く姿を青春と呼ばずして何と呼ぶだろうか。

そんな葛藤と対峙する2000年代の若者像として語り部に市原隼人をキャスティングするセンスは決して間違いではないし、空回り続ける日常に対する諦観が篭もるモノローグと上滑りした演技の対比は作品のテーマの的を射ているように思う。曰く『勝ち逃げ』した能登を演じる三浦春馬の何処か浮いた存在感も、陽介の空虚な人生との対峙にキッカケを与える存在としての説得力を帯びている。

空虚な人生に対する最大の抵抗としての『劇的な死』を選べる勇気を実際羨ましいと思えるのは事実で、そう思っていながらも生きる事を諦めきれない陽介のひときわ安っぽい言動は、観客に対する鏡としてこちらの心の芯をたしかに刺してくるのだ。

アクションシーンは主にワイヤーアクションを用いており、お世辞にも迫力があるとは言えないが設定を考えるとこの非現実感は采配として的確に一致しており、戦闘の場を変わる変わる変化させて映像として単調にならない工夫も凝らされている。この作品における『戦闘』はあくまで本題を描く手段の一つで決して重要要素ではないので、むしろここに尺を取りすぎなくらいに感じた。

この作品の要は青臭くて、ダサくて、安っぽい言動にこそあるのだがこの点は役者のマンパワーに依存してる節が強く、たしかに演出もそちらに寄っているが作品として表現したいであろうダサさとは違う方向性の物として出力されており、求める青臭さの表現としては物足りないのが今一つな評価の大きな要因である。

なんというか、演技、筋書き、演出、とそれぞれが描くダサさの方向性の纏まりのなさは違和として大きく物語を呑み込みきれず、それが駆け足に思える終結をもたらして歯切れの悪い後味を生んでいるというか……。

また結末に位置する最後の対峙に『選択』という物が存在しないのは端的にドラマとして至らなさを感じる部分があり、結局成るようにしか成らなかったという後ろ向きなハッピーエンドは某台詞をあまりにも虚しく響かせる。そういうのも嫌いではないのだが、作品としての指向性を思うと尻切れトンボに感じてしまう側面が強く、締まりの悪さが最後まで尾を引いているといった所感に落ち着く。原作は好きです。
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