このレビューはネタバレを含みます
『燎原の火』
激しく拡がっていく、野原を焼く火。
止められない勢いを喩えたりする言葉。
原題の意味は『侮辱』
誰かを言葉で辱めること。
小さな火種が燃え拡がっていく様。
今作はまさしくパレスチナ問題など、中東の抱える様々な問題の縮図のようでもあった。
確かに中東は長きに渡り、宗教的、民族的な部分での根深い問題を抱えていて、握手を交わす事さえ困難な程に関係を拗らせてしまっている。
作中、どんどんと問題の本質から乖離していく『状況』の拗れ方に…私たちの世界の滑稽さが垣間見えた。弁護士や裁判官、傍聴人、市民たち…周囲が火種を引っ掻き回して、大火事にまで発展させてしまうという構図のシニカルさに苦笑いが浮かぶ。
悲しいけど、それが現実。
これがいつかは世界を飲み込むんだろう…
いや、もう全部燃えてるんだっけ(爆)
俯瞰しちゃうと、本当に愚かしいな。
住んでる場所も、肌の色も、言葉も、考え方も何もかも違うけど…本来は全部『ヒト』なのに。
相手を蔑める言動や態度。
誰かを『殴る』に至る理由は様々で…
その破壊衝動の源泉を探そうとすると…性質的なフラクタルとかエントロピーの増大が起きて、途端に視界が不明瞭になってしまう。
第一前提として『殴る』を選ぶべきではない。
だけど情状は酌量される…絶対的な法があったとしても、それを扱うのがヒトである限り、それは不完全なものになるんだろう。
現実として、様々な問題が和解を迎えるには…
謝罪だけでは済まされないのが悲しいね。
でも、個人対個人での和解という最小単位を目にする事で、僅かながら希望を感じさせてくれる良作でした。いつかこの小さな希望が、多くの人の笑顔に繋がる事を願って…