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判決、ふたつの希望のNightCinemaのネタバレレビュー・内容・結末

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

最近で一番楽しみにしていた映画。期待通りとても見応えがあった。

相手の「背景」を思いやりながら生きていくこと。

これは難民問題を抱えた人々はもちろん、日本にいる私達の日常にも重なる大切なこと。人は誰もが皆、違った経験と信条のなかで生きている。他人の言動を理解できる土壌が自分にない時、人は自分だけが正しいと決めてしまう。だけどそんな風に生きることは、きっと悲しい。

理解はできないことの方が多い世の中だ。けれど歩み寄ることはできる。相手のバックグラウンドに対する思慮と敬意は、もしかしたら人間に課せられた最も難しい技なのかもしれない。

パレスチナ難民とレバノンの歴史。宗教。侵攻と虐殺。そうしたデリケートなテーマを扱った作品でありながら、根底には現代を生きる誰もに響くものを秘めている作品。

音楽がとてもいい。人間の複雑な心を表すような音色と共に始まり、共に幕を閉じる。人類の争いの歴史は変えられない。でも明日を変えることはできる。それは私達の心。そんなことが感覚に訴えてくるようで引き込まれた。

撮影方法も魅力的だった。横顔や、時には表情全体は見えないよう斜め後ろから人物の姿が映し出され、そこからその人物の心情を想像させるようなカットがあり、余韻が残る心地良さがあった。

トニーとヤーセル。最初は相手を殺したいぐらい憎んでいたけれど、それは決して理由のないことではなかった。そして弁護士が絡み事態が複雑化するにつれ、お互いが自然と自らを省みるようになっていった。自分にも原因があったのだから、と。

裁判が白熱してはいたが、ヤーセルが夜にトニーに会いに行き、二人は和解する。とても良いシーンだった。

元々この二人には、相手への敬意がない代わりに周囲への忖度も一切ないのが清々しかった。たとえ裁判に有利になるとしても、信条にそぐわないことははっきりと伝える。ある意味自分自身しか信じていなかった二人が内省の過程で歩み寄った瞬間というのは、観ている側に希望を与えてくれるものだったと思う。

この映画の魅力は悪意のみに動いている人物がいないことだ。ただ誰もが自分のルーツに誇りを持ち、歴史と信条のもとに行動をしている。法のみにて誰かが裁けるような次元ではない難しさがある。北風と太陽ではないが、必要なのは攻撃ではなく相手の「背景」を正しく知ること。

そうして出された判決はトニーとヤーセルだけではなく、その他何千何万という人々の心にも、生き方の指針を与えるものだった。

家族と生計への責任に駆り立てられはしても、信条と誇りを見失わない生き様を見せられ、目の覚める思いだった。

難民受け入れや和解、主張、配慮。そうしたものを日々胸に生きている人々の姿からは、忘れていたものを取り戻させられた人も多いのではないかと思う。

過去は変えられない。けれど未来は?

そんな問いかけをもらった気持ちになる映画でした。
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