垂直落下式サミング

ミクロの決死圏の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ミクロの決死圏(1966年製作の映画)
5.0
ラクエル・ウェルチが亡くなった。僕の生まれる前に活躍していた人であるから、出演作品をそんなにみているわけではないはずなのに、世界から美しいものがひとつなくなってしまった気がして、彼女がいちばんきれいだった頃を知っている人たちのことを妬ましく思い、お昼ごはんを食べたあとAmazonセールで手に入れた『ミクロの決死圏』のBlu-rayを再生。
テロによって脳にダメージを受けてしまった科学者を救うため、人間をミクロ化させて脳の内側から直接手術を行う危険な賭けに打って出る!といった内容。
狙われた科学者は西側に亡命を図ろうとしたミクロ化研究の大家であったため、アメリカ政府は彼を失うわけにはいかないと、冷戦時代らしい政治的な力がはたらいてくるわけだ。
ミクロになるまでがドキドキ!前半は主人公にあたえられたミッションの説明、そのあとミクロ化技術の説明、失敗すれば我が国はどれ程の損失を被り東側陣営に遅れをとるのかも長々説明、ず~っと口頭で説明してるだけなのに、ここまで面白い映画も珍しい。
潜水艦が段階を踏んで小さくなっていく様子はかなり人力に頼っているけれど、いざミクロの人体へ繰り出していくと、今度はタイムリミット・サスペンス。ミクロ化には時間制限があり、一時間で元の大きさに戻ってしまうという足かせが、物語をさらにスリリングなものにしている。
ミクロ化してからエンディングまで、ちゃんと上映時間はきっかり一時間のリアルタイム編集になっているのが、はらはらドキドキの隠し味。
潜水艇の揺れを表現するとき、役者さんが自ら揺れて団体芸で頑張っているようにみえるけれど、この時代の特撮はそういう可愛さ込みで見ていて楽しい。
ミッションは、一難去ってまた一難。手術に必要なレーザーが壊れたり、潜水艦が走行不能になったり、潜水艦の外で作業しているときに命綱が緩んだり、仲間のなかにソ連の手の者がいて邪魔しているのではないかとスパイ要素が入ってきたり、ラクエル・ウェルチの身体に大量の抗体が貼り付いてぐったりしてるのがえちえち過ぎたりと、インナースペースは危険の連続!
赤血球、白血球、抗体、リンパ管、細網細胞など、当時としては最新医学の学説に基づいているし、それをなんとかして映像的にみせようとしている当時の特撮班の頑張りが、今の時代においても鑑賞に耐える独特なセンスオブワンダーを生んでいる。
映画業界入りする前は、精神科医をこころざし医学部を卒業しているリチャード・フライシャー監督も、思わぬところで医学の知識が陽の目をみることになって、内心ちょっと嬉しくて張り切っちゃったのではないかと思う。
この映画のクランケは外からのダメージによる脳挫傷だったけど、血管の病気の原因は不摂生ってのは当時からわかってたらしく、暴飲暴食おじちゃん世代に皮肉たっぷり。お体をお労りください将軍殿、コーヒーはお砂糖控えめで。