MasaichiYaguchi

運命は踊るのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

運命は踊る(2017年製作の映画)
3.9
原題〝Foxtrot〟のステップは「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ」と元の場所に戻る。
イスラエルのサミュエル・マオス監督が自らの実体験をベースに或る家族を描く三幕構成の最新作は、このダンスステップのように物語が〝起点〟に戻っていく。
ただ戻るにあたって、そこには何とも割り切れない気持ちが残る。
三幕は夫々色合いというか独特の雰囲気に彩られている。
第一幕は家長であるミハエルを中心にしたストーリー。
ここではミハエルの人物像や彼が抱えたトラウマが、彼の言動や彼の書斎の雰囲気から立ち昇ってくる。
第二幕は国境の検問所を警備する長男ヨナタンのストーリー。
第一幕のピリピリとした空気から一転して、とても戦場とは思えない長閑でややファンキーな雰囲気が漂う。
ところが賑やかに騒ぐ若者たちが乗る車がやって来たことで事態は急変する。
そして母ダフナをはじめとした登場人物たちの感情が溢れる第三幕。
黒を基調とした落ち着いた雰囲気の中に灯る細やかな光。
「禍福は糾える縄の如し」というけれど、人生の不条理、遣る瀬無さが皮肉な円環の物語で浮き彫りにされる。
そこには第二次世界大戦下、ホロコーストに見舞われた民族が背負った歴史的トラウマさえ感じられる。
更に本作は過去の話を描いているのではなく、今我々がいる世界の何処かで起きている物語だということを忘れてはならない。