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パンとバスと2度目のハツコイのpecoのレビュー・感想・評価

4.8
冒頭からエンドロールまでの流れる空間と時間、対極だけどそれがうまく溶け込んでいる様な感覚に陥る作品でした。

今泉監督作品はすべて観ていて、この作品の予告が流れていたときから、「ああ、好きだな」と…どの作品も、人間性や社会性、性別、日常、抽象的だけど象徴的で、現実なのか非現実なのか、自分自身とリンクする部分がどこかしら散りばめられていて、どこか懐かしい、愛おしくなる作品ばかりです。


言葉も女性目線ばかりの台詞ではなく、ごく平凡な日常生活のなかでふとした瞬間の出来事や思い描く思想や他人には理解されない言動等、一人の人間として丁寧に描かれている。ドキッとするような台詞やどうな意味合いなのかと哲学的な台詞があり、頭の片隅に残るような印象深い言葉が散りばめられているから面白い。


そして、この作品で初めて知ったのですが、主人公市井ふみ役の深川麻衣さん。若手の女優さんは数多くいますが、その中でも、いそうでいない女優さんだと思います。まず声が良い(※これは天性のものだからほんと羨ましいです)人は見た目の次に、瞬時に声で印象づけれると思っているので、声が良い女優さんは限られている(←あくまで持論です)から印象に残る。聞いていて心地よくクセがない。クセがあると嘘っぽく聞こえてしまうので(←これは好みによりますが)

後から気付いたのですが、あるCMで、新婚夫婦が通いなれた橋でブルーハーツを徐々に感情が高ぶるような歌声で全力で走って抱き合うという幸せあふれるCMがあったのですが、その時は、この女性は誰なのかな?と頭の片隅にあったくらいで、名前の認識は映画を観た後に知りました。

なので、とても雰囲気のある女優さんが出て来たなと、きっとお人柄がそうなのか、とても品があり、落ち着きのある柔らかい女性だなと感じましたし、感情の起伏や視線一つでの表情の見せかたが上手い(感受性が豊かなんだろうな)

これまで様々なジャンルの映画を観てきたなかで、「パンとバスと2度目のハツコイ」は特に好きな作品の一つで、もちろん物語が魅力的かによりますが、その作品の良さを最大限に引き出すのは役者さんありきだと思っているので(こう単調なお芝居をする方やクセのあるお芝居をされる方ってどうも苦手意識があるので)深川さんはいい意味でクセがなくて、その作品に溶け込めやすい方なのかと思っています。スクリーンに映えるノスタルジックな女優さんだと思います。

何度も見返したくなる作品でしたので、久しぶりにDVDを購入しました(←購入したのは「南極料理人」以来かも)特典映像のメイキングから、原作はないオリジナル作品で、彼女のこれまでの生い立ちなどを反映されていると知り、だから等身大の女性が目の前にいる様な錯覚に陥ってたのかと、何よりお芝居が好きで(純粋で)そして真摯に向き合っている賢明さが映像を通して伝わってきました。今後も、どんな作品を見せてくれるのか楽しみです。もちろん「愛がなんだ」も公開が待ち遠しい。


また休日の昼間にパンとコーヒーを手にとりながら、ゆったりと観たいと思います。
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