ファスビンダー作品は、『ヴェロニカ・フォスのあこがれ』鑑賞以来、2作目である。
本作品、何と言っても冒頭の爆撃シーンのエネルギッシュさが突出している。赤色に染まったフォントのタイトルバック、キマりすぎている。冒頭にしてこの映画の瞬間最大風速かもしれない。その後の赤ん坊の泣き声、銃声、警報の音が鳴り響くところまで完璧である。(似たようなオープニングから始めのセリフまでの流れと効果音の使い方が完璧な映画としてリチャード・フライシャーの『十番街の殺人』が挙げられる)
この映画、音の使い方としてさらに凄いのが、ラジオの使い方である。特にラストシーンで登場する1954年7月4日に行われたハンガリーvs西ドイツのワールドカップ決勝の生中継。時代を切り取りつつ、映画の物語と同時並行して歴史的瞬間の臨場感を演出する試みがが凄い。(私たち日本人はセリフの字幕を追いながら、ラジオの字幕も読むことを強いられ情報量が多すぎて追いつかないのだが…)
医師とマリアが話す場面で、医師がクスリを打つシーンより先に不穏な音楽を鳴らしていたのも巧みだと感じた。
黒人彼氏と出会うバーのシーンやダンスシーンで流れるMoonlight SerenadeやIn The Moodなどのグレン・ミラーのスウィング・ジャズ(ちょうど時代は1940年代、ドイツでも流行っていたのでしょう)にもうっとり。黒人彼氏とダンスする場面は屈指の名シーン。
あと美術や衣装も本当に素敵で、オズワルドのスーツの着こなしなんか、憧れる。(あんな風にネクタイの色組み合わせてスーツ着たい。)
構図も特筆すべきである。窓越し、鏡を使った演出、斜めを使った人物配置も素晴らしい。
とはいえ、主人公マリアの愛する男を想いながら他の男と寝るという気持ちが理解できず…後半から少し集中力切れ。個人的には黒人彼氏を殺すところまでが特に面白かった。
爆撃にはじまり爆発で幕を閉じるこの映画。ルイス・ブニュエルの『欲望のあいまいな対象』もそうだった気がするのだが…違ったっけな?