O次郎

負け犬の美学のO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

負け犬の美学(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

中年の負け犬男性の哀愁を描くフレンチムービー。
マッチョイズムバリバリのハリウッドムービーとは一味違う、ボクシングシーンそのものよりその余韻に重きを置く独特の情緒が溢れた作品になっている。

冒頭、盛りをとうに過ぎた負け犬老年ボクサーの試合の一幕。劣勢であることのみ示してその結末は画に出さぬまま試合後へ。年齢や体躯からまさか選手とは思われず、会場の表口から入ろうとすると門番スタッフに制止される様がいちいち物悲しい。
深夜に帰宅して最愛の娘の寝床へ...勝敗を尋ねられて静かに「惜しかった」と苦笑する主人公の哀愁たるや、というところ。

なかなか試合が決まらないが、妻一人と子ども二人を抱えての世間胸算用。
偶然にも行きつけのジムにスパーリングパートナーを探しに来ていたチャンプのトレーナーに頼み込んでいざ王者のスパーリングパートナーへ。
他のスパーリングパートナーとの年齢差や身体の違いがもう歴然過ぎて唖然とするが意外や意外。主人公は動じない。

当然ながらまともなスパーリング相手になるはずもなく、すぐにクビを宣告されるが生活のためにチャンプの朝練に付き合って食い下がる。
ただの泣き落としなら見ていられないがここで見直すのがきちんと年の功を見せる場面。
チャンプの闘い方から一度KOされたボクサーゆえの怯えを見抜き、過去の対戦経験からチャンプの対戦相手への攻略法で主席トレーナーに物怖じせず反論する...。
「どんなボクサーでも、KOされる前と後とで絶対的に変わってしまう」。
まさに負け犬ゆえの重みのある台詞である。

娘がずっとせがみ続けた父の試合の観戦。拒み続けた主人公にはやはり負ける姿は見せたくないのか、プライドがなんとも屈折している。
娘のまっすぐで正義感の強い性格は、決して強くないながらも筋を通した生き方をした父親の生き様を感じさせる。

最終的にチャンプの計らいで自身の引退戦をお膳立てしてもらい、最後は勝利で飾る。
チャンプの闘いの行方がどうなったかも気になるがそこは趣旨がずれてしまうので已む無しとしておくところか。

序盤同様、ベットの娘に勝負の結果を尋ねられて苦笑で勝利を告げる主人公...心底ホッとして、ほっこりさせられる結末。
叙情感の豊かな、ちょっと変わったボクシングものが観てみたい人に。
O次郎

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