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イスマエルの亡霊たちのニューランドのレビュー・感想・評価

イスマエルの亡霊たち(2017年製作の映画)
4.1
日本初上映時から鑑賞を切望していたが、何度も都度どうしても仕事と被り、今回やっと。その間、何人もから、勿論明らかに私より鑑賞眼に長けた人らも、デプレシャンの最高作と聞かされ続けてきた。アサイヤスと並びこの四半世紀仏映画を、真っ正面きって、牽引してきた作家。確かに’90年代半ばに、日本でも全ての映画ファンに名前が刻み付けられた2人。どちらかといえばデプレシャン派だったが、その内本国では神格化されてると聞き、シラけてもきた。どちらも名監督で、文句ない傑作を数本ずつ発表しているが、趣味の良さに留まってる部分もある。
『イスマエル~』 は、各種和洋?切替え音楽もだが、映像デクパージュも冒頭から忙しなく圧倒的タッチのキレと密度が詰まりきってる。せっついて歩きくる者(や突然踊り出すのへも)へのフォローの、正面·後から·横や斜めの切替え·どんでんの角度差は切替えの限界を越えて内部で刃がぶつかり合う密度と力(次第にやや大人しノーマルめ、鏡や逃亡の拘り絡みになるが、キャラや場が目まぐるしく跳んでくる)、移動の距離もカーブも長く忙しさも度を越してる。じつに細かい寄り·退きの段差行き来切替えの才を見せたりする。ゆったり深くDIS繋ぎも多く、アイリス途中みたいな対象丸囲みの図も。幾つものまるで異質の場からの流れが併行し、相互に遠い縁を持ってたり·乗入れしたり、似た展開や心理を見せあったりする。初期の容赦ない才気叩き入れから、後期の旧い映画や語り物のいい加減さも触れ行く人間味の味わい、レネ映画への近しさを感じさせる。室内から浜辺、トーンもくすみから伸びやかさ迄、ロケ地や公私比重行き来の自在さ、がある。
外務省採用の独学青年の·自己を巡るキナ臭いやっかみから遠隔地·政治不定地へもトビ、若妻に去られて20余年·心の奥の執着に活力·精気を奪われた侭の映画監督の遅々たる製作速度、その妻の父で·私淑してる老巨匠のユダヤ人歴史と娘への深い憤り、監督を尻叩き様々方向アプローチのプロデューサー、らの幾つか自在に併行。監督と外務省青年は縁切ったような昔の記憶の方で結ばる兄弟であり、青年は兄の現場にも参加の女優と副業参加で近しくなり、互いを知る前に押しきられてく。同僚や彼女からの逃げの面もあり、遠隔地へも飛ぶが、ロシアスパイに絡めとられんともす。そのスパイの悲惨な顔を吹っ飛ばされての死が、方向を戻しもしてくる。(縁切れても弟を扱う題材製作思索中の)監督は二年前知り合った科学者の女と暮らしてるが、相手も愛はあっても、初老の男への労りを越えて家族造りへの情熱があるわけでもない。そこへ失踪21年、その間妻の父と狂乱気味に探しまくったが成果なく、戸籍抹消も過ぎた妻が戻ってくる。失踪後の迷い·彷徨から、施設や印人富豪との結婚生活(表面幸せも内の本物を欠いたを終え)を経て、毀誉褒貶超えて積極的·直線的になり。女2人は表とは違い似た資質は感じ合い近しくなるが、触発されるものが気づく·気づかないを越えて大きく、「嫉妬」「憎しみ」「逃げ」の感情が三者にはまた意識されて目覚めもす。学者は逃去り、彼女の為·迫る元妻には成行きの一度しか応じぬ監督。回顧展で合流する妻の父には黙り通すが、父の老監督は娘を目撃し、後倒れ死に至る前に娘の駆けつけを受ける。逡巡超えて、学者を探し追ってく監督。映画の進行にヤキモキ働きかけるプロデューサー。出会いも2年前なら再会も2年後(なぜ時制が半端な2年をメインで進むのかわからない)、2人は映画現場の喧騒から引っ込み、子供も宿し浮き立たぬ安定へ。学者の思わぬ(でもないが)身内への係わり思いが締める。
とにかく、映画として見事で面白く、その万華鏡·意外流れ、そこから本道垣間見せに見とれる、その奥の作家の志向の吟味以前の羅列提示、はやはり紛れもない傑作であるのだろう。只、こっちの気持ちは熟しきるには、拡がりがあり過ぎる。ハリウッド的な各地ロケのスケール·スピード感や残酷描写·見せ物的ヌード迫り·アイデンティティらあからさま披露もある。キャラたちは違うも、進行は慎みや内省に欠ける気もする。『そして僕~』『キングス~』『クリスマス~』には届かない気もするが、元々作品ジャンルでも作中でも、思わぬ要素がポコッと嵌まり込む人で、本流を離れたとも言えない。そもそも同世代だとデュモンらの方に気が行き、デプレ~·アサ~には距離は上手く取れないで来たのも事実だ。個人的に巨人より阪神、手塚より白土、といった嗜好性だけの問題でやはり愛すべき貴重な作家には違いないか。只、この人の上映後トークには、映画へも出自へも、筋金入りの作家とは言えぬ方向に失望も感じたが、それは喋り下手の本音引出せずの事だけかも。また、荒木さんだけが無意味に感動してた。
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