【インドで誘拐されてみる?】
インドの禍々しい祭の熱気からこの映画は始まる。インド南部ケーララ州の奇祭ガルーダン・トゥーカム(Garudan Thookkam)だ。男の背中に針が通され、まるでデスゲームで死ぬ3秒前の状態でえっさこらさと担ぎ込まれる。ガルダというインド神話に登場する火の鳥になりきるのだそう。『ヘル・レイザー』もピンヘッド男大歓喜の祭を10分近く魅せられると、突然真っ暗ガランとした空間が映し出される。そこにポツリと女の人が立っており、ヒッチハイクをしているようだ。そして、どうやら彼女は男の人と駅を目指していることが分かってくる。
そこに車が通りかかる。乗り込むと、ドス黒い不吉な予感が画面全体に広がってくるのだ。トラベルジャンキーなら一度は経験したことのある修羅場の前兆がそこに見えるのです。助手席に座るスキンヘッドの男が執拗に女の人に語りかけてくる。
「あんた名前は?」
それを相方が「彼女はねぇ」というと、「俺は彼女に訊いているんだ!名前はなんて言うんだ?」と尋問し始める。そんな状況にもかかわらず、男のスマホにちょいちょい爆音で通知が入る。緊迫感があるのに状況はどんどん悪くなり、彼女は咳き込み始める。
「おい、水やるよ、飲めよ。」
と煽り始める。
遂に怒り、男は女を連れて車を降りるのだが、車通りが少ない。別の車を拾おうにもなかなか掴まらない。そこに奴らが現れ、「さっきはごめんよ、だから乗ってよ」とまるでDVをする人のような甘美な声で迫り来るう。仕方なく、再び乗ると、今度は警察が現れたり、なんとかして脱出すると、腰にバスタオルを巻いたような変態おっさんコンビに追い回されたりする。90分しかないのに、誰しもが早く終わってくれと思う嫌な空気が充満し、さて彼らは無事に駅にたどり着けるのだろうか?という絶望を指咥えて見つめることとなる。
東京国際映画祭ではあまり話題にならなかったようですが、文句なしにモノホンのインドの恐怖を味わえる作品である。
P.S.何故かMUBIでの配信では、上映前の映画泥棒の映像的なものが付属していたり、映画の途中で「劇場内でのお酒はダメです」みたいなテロップが出ていて興味深かったです。