Koshi

リズと青い鳥のKoshiのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
4.1
「私 才能ないからさ みぞれみたいにすごくないから」

才能の差。それは現実に立ちふさがる大きな壁のようなもの。努力だけでは乗り越えられない。親しい友人には才能があるが、自分には才能がないと感じている。そんなときあなたならどうするだろう。本作はそんな複雑な気持ちを胸の底に隠し持つ高校生の物語だ。

北宇治高校吹奏楽部3年生オーボエ担当の鎧塚みぞれと同じく3年生でフルート担当の傘木のぞみ。2人にとって最後となる吹奏楽コンクールの自由曲として「リズと青い鳥」が選ばれた。この曲は童話「リズと青い鳥」を基にして作られたもので、「フルート」と「オーボエ」の演奏がそれぞれ「リズ」と「青い鳥」を表している。それを聞いたみぞれとのぞみは童話の話に自分たちを当てはめてみる。「リズ」が「みぞれ」で、「青い鳥」は「のぞみ」。何の疑問もなく2人はそう思い込んでいた。だが、合奏練習で納得のいく演奏ができない。なぜだろう。ただ時間だけが空しく過ぎていく。
 
私の1番好きな場面は、みぞれがのぞみの元から美しく羽ばたいていく「リズと青い鳥」第3楽章でのオーボエソロである。この場面は「第3楽章を通しでやってもいいですか?」と滝先生にみぞれが持ち掛けるところから始まる。このみぞれが奏でるオーボエのソロの美しさに心を奪われてしまった。「青い鳥はみぞれのことだったんだなあ」と、セリフではなく、演奏シーンで完璧に表現仕切った京アニの物凄さを感じる場面だった。コンクールの演奏ではなく、練習の演奏でここまで感動させられるとは何事だと言いたくなる。はじけるようなみぞれの明るい笑顔がとっても眩しくて綺麗だった。

しかし、私の涙腺が緩んだのはここだけではない。この素晴らしいみぞれのソロを聴いたのぞみがこぼした涙に強く心を打たれたのだ。涙で画面を曇らせる演出は本当に細かい。観る者の涙を誘う。みぞれとの才能の差を目の前に突き付けられたのぞみ。「わかっちゃいたけど、やっぱりね」。そんなのぞみの声が今にも聞こえてきそうであった。

その後の2人の会話も泣かせる。「私 才能ないからさ みぞれみたいにすごくないから」。なかなか素直になれないのぞみ。しかし、一途なみぞれのおかげで少しだけ素直になれた。「本番 頑張ろう」。2人の関係が一歩前へと進んだ瞬間である。このようにのぞみは今の自分の実力を素直に受け止めることができた。簡単そうに見えて、なかなかできることではない。私のように人間味あふれるのぞみに共感する人も多いのではないか。
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