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鍵のmasatのレビュー・感想・評価

(1959年製作の映画)
2.9
谷崎映画の最高傑作としては、この『鍵』となるのだろう。
原作に負けない市川=和田夏十のアダプテーションは見事。映画なりな展開とエンディングが待ち受けていて、面白い。また市川特有の編集のカット捌きは、目を見張るものがある。

以上を認めつつ、増村=谷崎作品に無性に惹かれるのは何故なのか?
Filmarksの私のスコアは
『刺青』(66)3.5
『卍』(64)3
『鍵』(59)2.9
とした。
当然、映画史的には増村より市川の方が上である。増村は、異端と位置されている。
しかし、だからこそ、此らが創られた50年代後半から60年代を経て、様々な人間の素顔、即ち裏の顔が描写された約70年を経て(それらのシャワーを浴びた我々が)いま此らの作品を見つめると、異端は時代をより超えて、輝きを増し、その妖しさに魅了されてならない。
映画は、結局、その“いかがわしさ”が勝ち、時代を超えて、その性質(性癖)が剥き出されていればいるほど、フィルムに焼き付いていればいるほど、観る者を沸き勃たせ、より胸を打ち、後戻り出来なくさせるのだ。
それを観てしまったら最後・・・と言う瞬間を持つ恐ろしいメディアなんですね、映画は。

そして、日本最高峰の撮影監督・宮川一夫が、本作、市川・鍵と増村・刺青、両方に股をかけているのが面白い。どちらも圧倒的な光と影のコントラスト、完璧な動きとフレームだ。さらに言うと、本作は静謐な品の良さが美しく、『刺青』の方は、より残虐で荒々しい。両監督の性質によって、その性癖に合わせたかの様な、まるで違う美意識を、その画に激らせ、発揮している。
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