ボブおじさん

オンリー・ザ・ブレイブのボブおじさんのレビュー・感想・評価

4.0
2013年、アリゾナで巨大山火事が発生。荒れ狂う炎に立ち向かったのは、森林火災専門の精鋭部隊〝ホットショット〟の20人の男たち。大切な仲間、愛する人たちを守るため、彼らは勇気だけ〝オンリー・ザ・ブレイブ〟で炎の海に飛び込んでいくが…

実際に起こった事件に基づいており、巨大山火事に立ち向かったホットショットへの監督・スタッフからの敬意を映画からひしひしと感じ取れた。

だがこの映画は、単に彼らを命懸けで市民を山火事から守る英雄譚には仕上げていない。一人一人家族がいて、恋に悩み、下品なジョークも言う等身大の若者であったことも描いている。

アメリカの森林火災は、日本でも時々ニュースによって伝えられ、被害状況を上空からとらえた映像はよく目にする。俯瞰から撮られた映像によりその規模と同時に消化の難しさは伝わってきたが、この映画では消防隊員の視点から間近に迫って来る炎の怖さを描き、その脅威に対し具体的にどのような消防活動が行われるかを教えてくれる。

炎のルートを予測して先回りし、シャベルで溝を掘ったり、チェーンソーで周囲の木々を切り倒したり、場合によっては人為的に山火事を起こすことによって、迫りくる炎をコントロールしながら、人家への延焼を防ぐ。

水源が確保できない森林の中での消化活動は、一般的な街中でのそれとは全く異なる知識とスキルが必要とされる。

木々をなぎ倒す荒っぽい消化方法と炎を恐れぬ心意気から、どことなく江戸時代の〝火消し〟をも思い起こさせる。
当時の火消しも放水活動ができないため、風向きを読み周辺家屋を破壊して延焼を防いだという。普段は鳶職や大工などをしていて、入れ墨を入れた気性の荒い者が多かったが組ごとの結束は強かったらしい。

ジョシュ・ブローリン演じる隊長からして、身体にタトゥーを施しているように、荒くれた男の隊員たちが作り上げる雰囲気は、まさに火消しであり体育会系。罰ゲームとして連帯責任でやらされる腕立て100回は日本の部活を思い出す。

主人公は「セッション」でその演技力を高く評価されたマイルズ・テラー。クスリに溺れるクズ男が父親になったことで自分を変えようと命懸けの仕事に取り組み生まれ変わっていく様子を繊細に演じた。次に続く「トップガン マーヴェリック」での演技と併せて早くも名優の予感をさせる。

だがこの映画で最も印象に残るのは、隊長を演じたジョシュ・ブローリンだ。若い頃は役に恵まれなかった感もあるが、「ノーカントリー」で遂に当たり役を射止めて以来、安定的に活躍をしており本作でも実質的な主役と言っていい名演を見せている。

市民を山火事の脅威から守りたいという気持ちが大前提としてあることはもちろんだが、それだけでない〝何か〟を彼から感じる。

妻は彼に対して〝消防士というドラッグに侵されたまま〟だと表現してたが、まるで森林火災と言う魔物に取り憑かれてしまった男のように感じられる。彼はしばしば炎に対して話しかけるのだ。その姿は〝白鯨〟を倒す執念に憑かれたエイハブ船長にも重なる。

その象徴的な話として彼は昔見た夢の話をする。全身を炎に包まれ森の中を走り抜ける熊の姿を彼は美しかったと表現した。

もしかしたらその熊とは、炎を恐れず炎と一体化する自分の理想の姿だったのかもしれない。この狂気を孕んだ自分の考えを畏れ、彼は引退を決意したのではないだろうか?

実話を基にした勇気ある人々への敬意と共に、人間の内面を深く描き出した監督の力量を感じさせる映画だった。