垂直落下式サミング

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.0
今回カスカベ防衛隊は、中華飯店が軒を連ねるチャイナタウンで武術の習い事を始める。懐かしい香港アクション映画のお約束である師弟関係の要素を取り入れ、悪のブラックパンダラーメンとの死闘を演じるしんのすけたちが中国大陸より渡来した伝説のぷにぷに拳の奥義の秘密に迫る一大奇談だ。
本作では、やはりマサオくんに感情移入してしまう人が多いのではないか。自分が先に習い事をしていたのに、後から始めた友達に次々と抜かれていくと、子供はへそを曲げてしまう。私自身もそういった経験があるし、そういう同級生はたくさんいた。そんな時は無理に努力したり変に我慢するよりも、適当に距離をおいて気を楽にしておくことが大事だ。そのうち周囲があの子は真面目だとか愚直だとか勘違いして褒めてくれるから、部活やなんかで調子が良くないときは「今はあんまり乗り気じゃない趣味」程度に考えて、腐っている時間は別のことをして気楽にやればいいと思う。一輪車なんてある日突然乗れるようになるし、背負い投げだけやっとけば高校卒業までに黒帯くらいは取れるから、つまらないことで悩んでいる子たちは安心してほしい。大人になっても同じ。大学も仕事も案外これでなんとかなるから、ぷにぷにの精神で生きていこう。
お話のなかで、正義感の強いランちゃんが少しの不正も許さない鬼神となっていく皮肉的な展開は、今の日本社会をよく風刺している。悪意を振り撒き伝播させる思想と清廉潔白以外を排除しようとする石頭はどちらも同質のものだとした上で、最終的に出す結論は「とりあえずみんなで楽しいことしようよ」というヌルイようで実は難しいこと。
どいつもこいつも悪党にみえるし、そいつらを正してくれるヒーローは不在だけどそれでいいじゃない、みんながある程度なかよしなら断罪されなければいけない人なんていないんですよと、ふざけながらも他者を鑑みない向上心や行き過ぎた正義という不寛容に一石を投じている。
「そこそこ」「まあまあ」「ほどほどに」そういうどっちつかずでテキトーな日本語がどれほど偉大か。文科省様推薦のお上品なメディア芸術作品などとは違い、しんちゃんは不真面目ながらも世俗的な柔軟さをもちあわせているのがいいところだ。