海老

Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~の海老のレビュー・感想・評価

3.8
この日に投稿するのもあざといとは思いつつ、承知の上で、敢えてそうしたくもなる。
鑑賞日は12月の頭ながら、温める事、ひと月。

今年もクリスマスがやってきました。

子供の頃の僕にとって、自分の誕生日以上にワクワクしていた、クリスマス。当時、その理由はよく分からなかった。無邪気にサンタクロースの存在を信じていた頃も、そうでない頃も、高揚感は変わらなかったように思う。自分が主役になれる誕生日より、どうしてこうも無性に心が躍っていたのか。

家庭を持った今、その理由が何となく分かる。
その気持ちに少しばかり、後押しをくれたのが、この作品。
「Merry Christmas」

原作は、チャールズ・ディケンズ著の「クリスマスキャロル」。
小説に関して補足をするならば、
イギリスはロンドンを舞台とし、守銭奴のスクルージが、3人の精霊(幽霊)に見せられる超常的な体験を通して改心し、「くだらない」と吐き捨てていたクリスマスを優しさで彩っていく物語。

名前を聞いた事はあるし、幾つもの映画がある事も知りつつ、原作が1843年という大昔に発刊された事を知らず、幾つもの和訳版を手に取る事も無かった。
ベストセラー書籍、定番の物語でありながら、原作の市民権は日本においてどこまで定着しているのか。少なくとも、今作を機会に僕は初めて小説を読んだし、興行を見るに、馴染みの無さが露呈しているかのようでもある。

できれば、"原作を知った上で"本作を観てほしいと思ってしまう。その理由は、単に多くの人に触れてほしい物語だからという事が一つで、もう一つは、本作は原作の映像化ではないから。

この映画は、クリスマスキャロルという小説の誕生物語。ゆえに主役はスクルージではなくディケンズ。小説に登場する印象的なシーン、人物の数々は、作者であるディケンズの眼前にイマジナリーとして現れ、彼らの人生を身勝手に喚く。
各自の我儘で物語が散らかる制作現場。狂言回しであるはずの作者が演者に振り回される様子はとても面白く、制作活動、私生活ともども困窮していくディケンズにスクルージが投影されていく様子も、分かりやすいぶん息苦しい。

長らく良作を産み出せず、追い詰められて排他的衝動に陥りかけるディケンズが、ようやく見つけた光の道筋にスクルージは生きる。その光で照らされたクリスマスという文化は、当時のロンドンに大きな光となったと聞く。

今作の原題は「クリスマスを作った男」

クリスマスという一年に一度のこの行事。街を楽しさと優しさで溢れかえらせて、大切な人と共に祝う習慣。そのルーツになった作品だから、ツリーのように賑やかで、プディングのように甘く芳醇。

その文化が、遠く離れた日本で、キリスト教に信仰の無い我が家にも届いていたという事実。
僕の両親も、きっと子供の僕を喜ばせるために、家族と大切な時間を過ごすために、本当に色々としてくれたんだと、今更に思う。作中に登場する家族たちのような、そんな家庭の、家からこぼれる窓明りでクリスマスの街は灯されていたんだろうと。その街の中にいるから、興奮が共鳴するのかもしれない。

僕達もまた、それを引き継ぎたいと願う。
とびきりの御馳走で子供を驚かせよう。ローストチキンに、ママのお手製ローストビーフ。チーズのクラッカーに大きいラザニア。憧れていたアイスケーキに、ちょっと背伸び気分のシャンメリー。子供の喜ぶものは沢山用意した。今日はお腹をパンパンにしてしまおう。小振りのツリーは娘の飾ったオーナメントで騒がしい。その根元には、慌てん坊のサンタがイブの朝にプレゼントを置いて行った。喜ぶ顔をこの手で見たいから、慌てん坊にもなってしまうよ。

全ては家族を笑顔にするために。
僕の子供たちにとっても、クリスマスが特別な日になるように。


自分の誕生日以上にワクワクしていた、クリスマス。当時、その理由はよく分からなかった。
家庭を持った今、その理由が何となく分かる。

大切な人と共に過ごす、大切な時間。
信仰に関係なく、一年に一度のこの日を大切にしたって構わないはずだ。


そして、そんな気持ちを、Filmarksの"大切な"映画仲間とも、分かち合いたい。
歯の浮く言葉も大目に見てもらおう。今日は特別な日なんだから。


家族に、皆様に、
メリークリスマス!
海老

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