MasaichiYaguchi

ベン・イズ・バックのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ベン・イズ・バック(2018年製作の映画)
3.7
「父母の恩は山よりも高く海よりも深し」と言うけれど、主演のジュリア・ロバーツが、本作の監督と脚本を担当したピーター・ヘッジズの息子であるルーカス・ヘッジズと初共演した本作では、アメリカ社会を蝕む薬害依存症を題材に、母子愛のドラマが時にサスペンスフルに、時にドラマチックに繰り広げられていく。
薬物の直接的な影響による死者は2015年で約17万人。
アメリカでは2017年に史上最多の7万人が過剰摂取で亡くなっていて、本作でも取り上げられているオピオイド(麻薬系鎮痛剤)の広がりが深刻で社会問題化している。
この薬害依存症を題材に親子愛を描いた近年の作品というと、現在も上映中で実話を基にした「ビューティフル・ボーイ」があるが、この作品ではドラッグ依存症の息子と父親とによる紆余曲折した葛藤のドラマが描かれていたが、本作の息子ベンは気晴らしや軽い気持ちで薬物に手を出した訳ではなく、医療ミスで中毒になってしまったという“巻き込まれ型”である。
ただジャンキーになってからは、どちらも坂道を転げ落ちるような生き方に陥る。
そして、どちらの親も地獄に落ちていく息子を助けようと奮闘する訳なのだが、本作でジュリア・ロバーツ演じる母親のホリーの執念は鬼気迫るものがあって圧倒される。
怒り、笑い、涙し、絶望に打ちひしがれ、そして慈愛で包み込む、それら一つ一つの彼女の表情、仕草が自然で共感を覚え、引き込まれてしまう。
ポスターやチラシ、予告編から受ける印象を裏切り、観客を「今そこにある危機」の渦中に置く本作は、観終わった後、改めてタイトルに込められた意味の深さを噛み締めてしまいます。