真一

工作 黒金星と呼ばれた男の真一のレビュー・感想・評価

工作 黒金星と呼ばれた男(2018年製作の映画)
4.7
 緊張する朝鮮半島情勢の実像を、手に汗握るスリリングなスパイ伝記を通じて学べる極上のエンタメ作品。

 本作品が描くのは、 韓国にも北朝鮮にも、南北関係が改善すると困る勢力がいるという呆れた現状だ。韓国の保守勢力は、情勢が緊張するほど大統領選で票が集まるとみて、なんと敵方の北朝鮮に対し「韓国に小規模な攻撃を仕掛けてほしい」と極秘要請。同時に「協力費として四百万ドルを提供する」と持ちかける。一方の北朝鮮軍の情報当局は、この提案に大喜び。緊張の高まりで軍の国内影響力が増すだけでなく、小遣いまで手に入るからだ。

 癒着する韓国保守勢力と北朝鮮軍の情報当局。これに対し、韓国と北朝鮮双方の融和派は「このままでは大変なことになる」と警戒感を強め、水面下で手を結ぶ。南北の強硬派連合軍VS南北の融和派チームの目に見えないバトルが、ついに勃発。物語はクライマックスに向けて加速する。

 そう言えば2017年の日本総選挙の前、北朝鮮は弾道ミサイルを相次ぎ発射した。あの選挙で安倍晋三首相は「北朝鮮は脅威だ!」「国難だ!」と叫んだ。結果は自民党の圧勝だった。ひょっとしたら安倍首相も韓国保守勢力と同じように、金正恩に電話で「お願いだ。ミサイルを飛ばして日本国民を脅かしてほしい。そうすれば有権者は強硬派の私に投票してくれる。お礼は後日する」とお願いしたのではないか…などと邪推したくもなる。

 北朝鮮の融和派で経済担当所長を演じたイ・ソンミンの渋い演技に痺れた!情報将校に扮したチュ・ジフンの傲慢な態度も高得点!そして金正日のそっくりさん、マジで瓜二つだった!本人出演かと思った😂

 作品全体を通じ、南北対立を煽る保守派への嫌悪感と、南北融和実現への強い願いを感じ取った。隣国の日本に住む私たちは「北朝鮮は深刻な脅威。断固許すな」「米国と共に圧力を強めよう」と叫ぶだけでいいのか。それで北東アジアの平和は本当にもたらされるのか。そんな考えも頭をよぎった。多くの方々にご覧になっていただきたい韓国映画の傑作です。
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