りょうすけ

ミッシングのりょうすけのレビュー・感想・評価

ミッシング(1982年製作の映画)
3.5
「ミッシング」

第35回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞した社会派サスペンス。1973年、軍事クーデター真っ只中のチリにて、アメリカ人男性チャールズ・ホーマンが行方不明となった事件を題材にしている。

冒頭には「登場人物の名は変更しているが、事実を忠実に再現している」というナレーションが入る。これから描かれることは、映画でありながらも実際に起こったことなのだなと背筋が伸びる思いだった。

そして、それから描かれたのは、残虐極まりない軍事政権の所業の数々。何処にいても聞こえてくる銃声と、軍人が画面に映った時に感じる緊張感が半端ない。題材はちょっと違うが、オーウェン・ウィルソン主演の「クーデター」を思い出した。

途中、息子を探すために遺体安置場を訪れるシーンがあるのだが、このシーンが今だに頭から離れない。何人もの血を流した人が床だけでなく、天井にもびっしりと並ばされている。映画の内容ではあるが、これも現実に起こったことなのだなと思うと、寒気がする。

本作の主人公であるチャールズの父親は、映画のキャラクターとしていい人間ではない。粗野で、息子の妻への敬意にも欠けるし、第三者目線から見ると好感を抱くような紳士的なキャラクターではない。

しかし、この状況に立たされた時に、人間は映画の世界のヒーローのような立ち振る舞いをできるのかと言われたら違う。彼のように、少し荒っぽくなってしまったり、苛立ちを隠しきれなかったりが現実だろう。そういった意味で、ジャック・レモンの演技は素晴らしいし、間違いなく賞に値するものであった。

どうしても社会派ドキュメンタリーみたいな感じがしてしまって、展開的に面白いかと言われたら、手放しに賛成はできないが、見応えはある作品である。コスタ=ガヴラスの監督作品の中では、レンタルもあり、比較的観やすい作品と思うのでお勧めしたい。
りょうすけ

りょうすけ