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それだけが、僕の世界のKUBOのレビュー・感想・評価

それだけが、僕の世界(2018年製作の映画)
3.8
12月2本目の試写会は、イ・ビョンホン主演「それだけが、僕の世界」。

自閉症児ながら天才ピアニストの少年と、交通事故で片脚を失って音楽界から姿を消した美しき女性ピアニストの話だけでも1つのストーリーが十分作れるのに、本作はさらに、その自閉症児の兄が元チャンピオンのボクサーで、その兄と母親との確執までもテーマにしており、笑いも感動もある素晴らしい家族ドラマではあるが少々欲張り過ぎの感もある。

前半はボクサーの兄のパート。かつては東洋太平洋チャンピオンにまでなったボクサーながら、今はスパーリングパートナーやビラ配りで生計を立てるうだつの上がらない兄を、あのイ・ビョンホンが演じている。

日本でも、それまで良い人ばかり演じてきた役所広司が、最近ワイルドな役を演じるようになったように、逆に渋い役ばかりだったイ・ビョンホンが、こういうコメディ要素も多いだらしない役を演るのも新たなる挑戦か?

自閉症児の弟と兄イ・ビョンホンとの掛け合いは軽妙でおもしろい。サヴァン症候群の弟ジンテの奇行を笑っていいのか悪いのか、ちょっと悩んじゃうけど、普通なら遠慮したり相手の気持ちを考えて言えないようなことをハッキリ言っちゃうのが、なんか痛快でやっぱり笑っちゃう。

兄が数十年ぶりに出会う母は、かつて夫の暴力に耐えきれず、兄ジョハをその夫の元に残したまま家を出た。その後、父の暴力のはけ口となったジョハには、自分を捨てた母を許すことはできない。そして、その母は父の違う弟と暮らしていた。

後半は一気に音楽映画に早変わり! ピアノの天才の弟くんが大活躍。この演奏のためにジンテ役のパク・ジョンミョンは3カ月間ピアノの練習に励み、吹き替えなしで自分で演奏したというのだが、にわかには信じがたいほどの名演奏だ。

見るからに知恵遅れのジンテが天才的な演奏を披露するのは、オーディション番組の「Britain’s Got Talent」のように、そのギャップから観客により大きな驚きと感動を与える。悪く言えば音楽はイージーにカタルシスを与えられる。

このパートは確かに素晴らしいのだが、前半と全く温度が違うので、1つの映画の中に2つの映画が入っているよう。

そして、さらに最終章、まだこんな展開を用意してあって泣かせようとするのかい!と。でもやっぱり盛り過ぎでしょう。

ジンテ役のパク・ミョンジュン、よかったな〜。天才ピアニストの部分もだが、サヴァン症候群の少年の自然な演技がこの作品の愛を支えていた気がする。

なんだかんだ言ったけど、言ったようにバランスも悪いけど、トータル、音楽で、家族愛で大きな感動をくれる作品だった。
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