りっく

猫は抱くもののりっくのレビュー・感想・評価

猫は抱くもの(2017年製作の映画)
4.1
あらすじだけを辿れば、元アイドルだが現在は田舎でスーパーのレジ打ちをしているアラサー妄想女子の沢尻エリカが、ゴッホという画家志望の男と出会ったり、アイドル同窓会という番組に出演しに東京へ行ったりしながら、最終的には都会に出てきて結婚式で歌うというかつての夢に近い仕事に就き自分の居場所を見つける物語であるが、その表現方法がファンタジック。犬童一心の野心作であり、映画の虚から実を引き出そうとする思い切った演出は賞賛されるべき。

まず本作は猫を人間が演じている。沢尻エリカの自分探しの物語とともに、吉沢亮演じるネコとの恋愛物語をどう描くか。ここで犬童一心は舞台劇という形をとる。荒唐無稽な設定をフィクションだと強調し、また沢尻エリカが居場所がない状態であるからこそ、無機質で生活感が皆無の抽象的な舞台が効果的に働いている。この思い切ったフィクションラインの提示が作り手と観客と冒頭から共通認識になるからこそ、異質な映画も飲み込める。

そして後半でかつてアイドルだった主人公が、自らの現在地を偽り、そしてグループの端っこで歌うパートもほんの少しだったが、そのステージに立つのにどれだけ苦労したかを涙ながらに語る姿。ここで役柄を飛び出した沢尻エリカの実人生が、虚から実が飛び出し、彼女の存在が力強く光り輝く。そしてこのリアルな力強さこそが、とにかく周りをフィクションの世界で塗り固めた演出ゆえに引き出すことができたのだと思う。
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