Kz氏

万引き家族のKz氏のレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0
家父長制を基盤とした前近代の家制度と、家族とは、当たり前だが違う。核家族の現代ともなれば、もはや、血縁という言葉にさえリアリティがない。
「万引き家族で日本人のイメージを作られるのは嫌です。日本人は勤勉で正直で礼儀正しいです。」という、その二重三重の見識のなさをいっそ礼賛したくなるような批判は、敗戦アメリカナイズによって完全に絶滅した「家」の幻想に依るファンタジーなのだろう。
それでも核家族はまだ、この国の共同体の最小単位だけれど、共同体はそれを支える経済背景がなければ崩壊する。
父・弟・母と亡くなって、私の家族は消滅したが、最後まで家族の形を維持できたのは、高度経済成長に乗って終身雇用制の中を泳ぎ切った父の収入と遺産のおかげに他ならない。
呑みに付き合ってくれる卒業生達からつらい身の上話を聞くことが多い。内情様々ながら、格差どころか中流の崩壊と言われる現況とその悲哀とは決して無縁ではない。
子供の頃に、親が見ている後ろから、ブラウン管のモノクロの中に同じテイストの映画を垣間見ていた気がする。きっとイタリアン・リアリズムやそれに連なる古い邦画だろう。
オリンピックのカジノのと浮かれていても、今は、「自転車泥棒」の昔に戻ってしまったのではないか。
……と思わせる作品でした。
Kz氏

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