ぽんぬ

万引き家族のぽんぬのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

6/8(金)17:50〜20:05
日の出イオンシネマ

良い映画だった。とにかく終わった後の余韻がすごい。笑える映画ではない分、終わった後、感動と共にどっと疲れに襲われる。

(最後以外は)物語に波がある映画ではないのに、飽きさせない。邦画でこんなに胸が詰まる思いをしたのはいつぶりだろう。
笑えるシーンがあったわけではない、ハッピーエンドかも微妙だ。それぞれが正しく
あるべき場所に戻ったはずだ。
一時とはいえ、あの瞬間、あの場所で、間違いなく家族だった。
瞬きをすることさえも惜しくて、クライマックスに向けて息を飲ませる映画だった。
個人的に好きなシーンは、家族全員で隅田川の花火を縁側で見るシーン。カメラアングルが面白かった。夏を感じられる、家族の団欒の象徴のようだった。

そして安藤サクラの演技力が、とにかく、すごい。
まず、祥太の入院をきっかけに捕まった家族。そして信代は個室で警察での事情聴取、婦人警官からの質問を受ける。
「子どもたちからはなんて呼ばれてたの?ママ?お母さん?」
この言葉のあとの演技は、この映画で一番泣けるシーンだった。
髪をかきあげる仕草、手のひらで乱雑に拭う涙。訴えかける目。言おうとしても言葉にならない言葉。乾いて、諦めきれないような、諦めたような悟った笑い。
この一挙一動が、一つ一つが、信代の気持ちを思い起こさせて、画面には写っていないが、フィルムの一コマのようだった家族の思い出を浮かび上がらせた。
「産まなければ、母になれないのか」
考えさせられる。間違いなく信代は2人の母だった、言動も行動も。

ゆりの昔の服を燃やすシーンで、縁側で信代はゆりを思いきり抱きしめる。お互いに頬をこすりつけながら、愛おしそうに、抱きしめる。本当に愛してたら、人はこうするんだと言いながら。
お風呂に入りながら、お互いのやけど跡をお揃いだねと笑いあう。ゆりは信代の傷を、痛くないよと言う信代を無視して、ずっと撫で続ける。

最後のシーンで、母親の元へ戻ったゆりの、やたら遠くを見つめる目が家に帰った今でも忘れられない。
口数の少ないゆりの、まだ幼い子どもはなにを思うのか。確実に今より大切に、そして大事にされていた偽家族の元へ戻りたいと思うのだろうか…。迎えを待つような、無表情のあの顔は本当はなにを思っているのだろう。

ネタバレやあらすじを読んでから行かなくて良かった。
あの不完全な家族を、もう一度なんらかの形で見たい。
ぽんぬ

ぽんぬ