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万引き家族のColのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.9
本当にあった年金不正受給の事件から是枝監督が着想を得て、数年かけて作り込まれたこの作品は一つの答えだけでは出すことが出来ない現代の表裏を映し出した感慨深い作品と感じた。

既に多くの人が観ているだろうこの作品の良し悪し、ストーリーの結末に賛否両論あるだろうが自分はハートフルでありつつも刹那的な感情を感じそのなんとも言えない余韻が好印象にのこった。そもそもタイトルからして『万引き家族』とラストはろくな展開を迎えるわけないストーリーを予測だてながらも主人公達家族の貧乏ならもあっけらかんとした仲睦まじい生活風景にふとそんな予測は忘れがちになる。ただストーリーが進むにつれ家族達の言動、行動から感じられる違和感がゆくゆくのラストで語られるところでありこの作品の面白いところ。家族を「結束帯」として、各登場人物の生き様を「紐」に例えるなら複雑でいびつなそれぞれの紐は数奇な巡り合わせによって一様の束の形に見えた。冒頭で良く聞こえたエピソード、悪いと感じるエピソードが結束帯が外れることによって良い話が悪い話へ、悪く思えた話は人間としての美談へと裏返っていった。その何が表裏変わったのかはここでは記載しないがこの部分こそこの映画を観たいろんな見解を持つ人達と語り合うことで2重3重にも深みの増すストーリーになっている。おそらく人と話すことでいろんな伏線とその回収、その背景や現代の何を示したかったのかが発見できる重厚な作品。日本独特な”本音と建前”という道徳観が日本以外でも受け入れられる理由としてその内容以上、映画としての是枝監督の脚本力にあったと感じる。

ただ実際の事件からの作品ではあるがこれはフィクションであり映画。最後に感じた一つの感想として、これほどまで現代の貧困や、家族とは、絆とはと現実の闇に差し迫る作品でありながらも、そのあり得そうであり得ないこのストーリーにどこか不思議にもファンタジーに感じた。是枝監督の初期の作品である『ワンダフルライフ』にも似た余韻を得た気がする。彼の作品はいつも大事な物ほど、表層だけでは解りえないものだと語っている。
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