海老

快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー en filmの海老のレビュー・感想・評価

3.5
本レビューは感想より解説が多いので、戦隊モノに疎い方にも読み易く工夫したつもりです。とは言え僕も大して詳しくないので、百戦錬磨の戦隊マニアの皆様におかれましては、寛大な眼で眺めつつお口にチャックで宜しくどうぞ。

所謂「長寿」と呼ばれるコンテンツ。長寿のドラマ、アニメと言えば何を思い浮かべるでしょう。
ドラえもん、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃん、仮面ライダー、それとも名探偵コナン?実はこの作品群のどれよりも長寿なコンテンツ、スーパー戦隊シリーズ。累計放送期間は実に42年に及びます。水戸黄門とほぼ同い年であり、その主たる活動内容もほぼ同じなのであります。印籠を見せる時に爆発が有るか無いかの差と言っても決して過言では無いでしょう。※過言です
余談ですがギネス記録更新中のサザエさんには劣ります。中島は48年間も磯野を野球に誘い続けているのです。

放映開始時期で言えば仮面ライダーのほうが古株(※空白期間が長い為に累計は短い)で、戦隊シリーズはもともと「5人の仮面ライダーを出そう」という企画が転じて戦隊の形に着地したもの。そのフォーマットは大切に守られ、長年愛されています。そう、これは様式美。変身と大見得切りを行儀よく待つ敵も、隙だらけの必殺技に当たりに行く事も。それは相撲の様式美であり、プロレスの美学。美しき所作、築き上げられた文化であり、国技なのであります。

さて、そんな文化を守りながらも、マンネリの穴に囚われすぎないよう工夫もされておりまして、前作の「キュウレンジャー」では、一個小隊並みの「規格外の人数を登場させる」方法を用いてきました。様式を愛しつつ囚われないように。その意思を継いだ本作の名は、
「ルパンレンジャーvsパトレンジャー」
一度に二つの、異なる正義を掲げるヒーローが衝突すると言う、聞いた事もない内容なのです。
「いやシビルウォーがさ」
お静かに願います。
「新旧戦隊のvs映画は毎年やってたけど」
お黙りたまえ。

パトレンジャーのモチーフは警察。過去にデカレンジャーという戦隊もいましたが特に関連は無い模様。
ルパンレンジャーのモチーフは怪盗。ルパン3世ではなく元祖アルセーヌ・ルパンのほう。なのでルパンダイブもしなければ、女好きでも無いし、貴方の心を盗んでいったりもしない。

物語上、絶対悪として描かれるヴィランを据えつつも、その悪から宝を奪っては奔放に人々を助ける現代義賊のようなルパンレンジャーと、警察組織の中にあって法のもとに全ての悪から市民を守らんとするパトレンジャー。2つの対立する戦隊はいつでも闘い、決着が付くことはない。
正義の反対は必ずしも悪とは限らず、正義に相対するのは別の正義でもあることを子供に教え、「君はどっちを応援する?」と問いかけてくる。
いつでも一枚上手で余裕を見せる軽快な怪盗に憧れるも良し、不器用で融通は利かなくとも油にまみれて闘う警察の格好良さに気付くも良し。唯一の絶対正義が悪を討つ「正義は勝つ」図式であった従来の様式にスパイスを効かせ、子供達に問いを与えてくれる。
そして、対峙する互いの正義が、本当に大切なものを守る為に背中を預け合う立ち姿は、熱い想いを伝えてくれる。

加え、特撮の醍醐味である戦闘シーンにおいても、子供向けコンテンツと侮っていると結構に度肝を抜かれます。元より今では人気職業であるスーツアクターの門は狭く、戦隊、ライダーともなると相当の熟練アクターが演じるとのこと。体術だけでも見ものなのに、そこに現代のCG技術と撮影技術が足し算で覆い寄せてくる。ドローンと全方位カメラを利用しているのか、俯瞰視点から降下して地を這い股下を抜けて反転し更には演者を次々にフォーカスするような縦横無尽ぶりを想像してください。そこにアクターのアクロバティックな演技が足されるのだから鳥肌が立つ。大人も唸るのも無理からぬ話なのであります。

特撮ヒーローは、いつの時代も子供の憧れである為に、その努力で進化し続ける。時代が流れて色んなものが進化しても、取り残されずに進化し続ける。本当に大切な真ん中の部分を見失うことなく。
だから子供の憧れであり続けるし、大人にも響くのだろうな。


娘に聞いてみる。
「ルパンレンジャーとパトレンジャーのどっちが好き?」と。

娘は答える。
「えっとね、ルパンレンジャーとパトレンジャーが好きなんだよ。」と。

そう来たか。
負けたよ。
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