MasaichiYaguchi

彼が愛したケーキ職人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

彼が愛したケーキ職人(2017年製作の映画)
3.8
「食べることはエロティック!」と言う人がいるが、この映画には様々なスイーツ、クッキーやケーキ、パイが出て来て、それらを美味しそうに食べている登場人物達を見ていると、思わずその言葉に頷きたくなる。
イスラエルのアカデミー賞に該当するオフィール賞で主要9部門にノミネートし、海外の映画祭で上映され、幾つもの賞にも輝いた本作では、このスイーツを軸に1人の男性を愛した男女の不思議な三角関係の物語が繰り広げられる。
物語の登場人物達、原題〝The Cakemaker〟を指すトーマスはドイツ人で、ベルリンにあるカフェのケーキ職人、そして月一の出張でベルリンにやって来てカフェの馴染み客となり、彼と恋愛関係に発展するイスラエル人オーレン、更にエルサレムでカフェを開いたオーレンの妻アナトの3人は、オーレンを真ん中にしてベルリンとエルサレムでカフェを営む男女と絶妙なバランスで成り立っていたが、思わぬ不幸が彼らを襲う。
掛け替えのない〝心棒〟を失った男女は、その面影を追うように寄り添い、クッキーやケーキを媒介にして人種や国籍を越え、心を通い合わせていく。
この作品を観ると、同じ唯一神「アブラハム・イサク・ヤコブの神」でありながら、キリスト教とユダヤ教の違いをまざまざと痛感する。
この違いが作品に影を落としていて、同じ喪失感に捉われた2人の物語を更に切なくする。
ただ私は、美味しいものの前では国境も人種も関係なくて、そんな障壁は消えてしまうのではないかと思う。
温もりと切ない余韻を残すラストを観ていると、そんな思いを抱いてしまいます。