シミステツ

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのシミステツのレビュー・感想・評価

4.2
カウンターカルチャーの影響も色濃い60年代のハリウッド。
旬の過ぎた俳優リックはムービースターへの道を目指す。マカロニ・ウエスタン映画への出演に意気込むも焦燥感から台詞忘れで取り乱したりメンタルの弱いところが人間味を感じられてよい。その後の怪演で監督や共演の女の子に演技をベタ褒めされて目に涙を浮かべたりいちいち感情の波が激しく、何とか生き抜こうとする必死さが伝わってくるし、観ている側もキャラクターにスッと入っていける。

一方のリックは悠々自適というか、周りに惑わされず自分らしく生きる、時代に左右されない普遍的なカッコよさを感じさせてくれる。ディカプリオとブラッド・ピットのバディが実現するだけでアツいが、このリックの繊細さとクリフの大胆で堂々としたおおらかさが対照的で、お互いに共鳴して必要としているのが伝わってきて大いに感情移入できる点もポイント。

リックがイタリアで成功を収めた後、クリフとのバディ解消が取り交わされる。時代に翻弄され、もがき苦しみながら、何とか生き抜こうと必死だったリックの時代は終わってしまうのか。そう思われた中での、ある真夜中の事件。

ラスト30分はハラハラした。急に緊張感が出てきて、車でやってきたヒッピーたちの目つきも狂気じみていたし、部屋に侵入するまで、そして部屋の中でのアクションも見応えがあった。タランティーノの真骨頂という感じ。危機的状況でのブランディの大活躍はめちゃくちゃスッキリしたし、演技力が飛び抜けてた(エサのシーン含め)。最後リックが火炎放射器を持ち出して錯乱状態で喚く女を燃やすシーンはエグいし、とんでもなく現実離れしすぎてて、リックの映画の中の一幕なのか、はたまた現実なのかという「メタ」感を感じられてすごく面白かった(ここを伏線回収するのかという驚きも含む)。

喩えるならヒッピーVS旧時代の構図があり、宗教的コミュニティ・戦争反対・LSDというヒッピー描写がある中で、軟禁や行き過ぎた暴力(そもそもリックは映画の中での表現としての人殺しである)は正義ではないという、過去の教訓からそうした悪を退治するという「ヒーロー性」をリックの現実に持ってきた(役としてではなく)というのがメタ的に示唆に富んでいたし、カウンターカルチャーに翻弄されたリックがそのカウンターカルチャーをやっつけるというのも、生きる時代を嘆くのではなく、自らの手で未来を変えられるんだという希望を感じさせてくれた。

事件がきっかけで隣人のシャロンと繋がり、リックの未来が開ける、そんなことを予感させてくれるラストだった。

60年代の世界観の作り込みがさすがだという感じだし、挿入されるロックンロールミュージックが心地よく感じられた。