ワルキューリ

焼肉ドラゴンのワルキューリのレビュー・感想・評価

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
4.1
「戦争」大多数の日本人にとってのそれは、まず間違いなく第二次世界大戦での記憶なのだろう。
しかし、日本は日本人だけが存在する国ではない。特に植民地政策に伴う朝鮮半島統治は日本へかの地の方々が多く移り住む原因となり、大戦の惨禍に巻き込まれた人も数多いる。
そんな中の一人、金龍吉を筆頭に妻とお互いの連れ子の3姉妹、夫婦の実の未子・時生は大阪の片隅のバラック小屋が集まる地域で慎ましいながらたくましく、笑いの絶えない暮らしを送っていた。そんな中、押し寄せる時代の流れとともに彼らが心に秘めてきた思いもあふれだす――

1969年から始まる物語は戦争の匂いに満ちている。片腕を失くした龍吉、いじめを受ける時生…でもそういった重さは表面上なかなかあらわにはならずに、どこにも存在する家庭問題に終始しているかのように見える。特に三姉妹と男たちをめぐる恋愛は昼ドラもかくやの展開。
ここでの大泉洋の情けねえ姿はさすがですね。

そんな一家をナレーションを兼ねる時生の目から客観的に捉えていたかと思ったら、中盤に用意されていた切り返しに呆然。
特にうどん汁をこぼす下りと、「世間を連れてこい」の絶叫は押し込めていたものが揺れ、こぼれる痛みが心に刺さった。

彼らにとっての戦争とは今も決して終わってはいない、地続きのものであり、ラストでの家族の行く末もそれを示している。
「昨日がどうであっても、明日はいい日になると信じる」そんな強い思いと叫びにほんの少しだけ救いの光を見た。