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バイスのmのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
4.9
映画の枠組みをぶち壊す寸前のブラック・ユーモア(あの『エンドロール』!!)に狂った語り口(こいつがナレーターだったの!?と気付いた時は作り手の狂気にびびった)。それとは真逆に大真面目に、胃が痛むような現実の悪夢を冷徹に見詰める視点の知性。更に『悪人』を単なる『悪人』として描かず人間として描く人物描写の多面性が加わり、いよいよ複雑怪奇なアダム・マッケイ節が完成された印象。素晴らしかった。

タイトル前の妻が夫を叱咤激励する場面や後に彼がその事を思い出す瞬間、義父との場面、娘との関係があるから彼の事をつい『人間』としてほんの少しの情を寄せて見てしまう。だからこそ彼や周りの人々がしでかした大悪事への感情がより複雑になる。意地でも決して簡単な映画にはしない、という監督の意志に感嘆した。


俳優部の仕事は全員見事で、特に狂気の役者バカ一代っぷりを今まで以上に見せつけたクリスチャン・ベールはやっぱりオスカー獲るべきだった。
カメオのあの女優は馴染みすぎててもはやカメオと認識できないくらい。


最後の最後でうまくまとめ切れなかった印象もあるが、そのまとめ切れないという事に意味があったとも思う。


ゼロ年代の政治の裏側を描きつつも決してこれが過去の話ではなく、この時の影響が世界に未だ残っている事、そしていつでもまたこうなりうるという事を明示していて、映画の射程は確実に『今』だった。
日本でもいつか、まさに今の政治の裏をこういう形で描く映画が生まれると良いなと思うけど、まあ無理なんでしょうね。
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