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覗かれる人妻 シュレーディンガーの女のmのレビュー・感想・評価

3.9
隠れた鬼才・城定秀夫監督作品。台詞も音楽も削ぎ落とし、環境音も削ぐ事で妙な不穏さが全編に漂う。久しぶりの黒い城定映画の気配が仄かにあって、淡々とドライに映画は進んでいく。

『シュレーディンガーの猫』というモチーフがてっきりサイコ風味に活かされるのかと思いきやそうではなく、かといって『見られる事で自我を確立する』といういつもの城定作品のような女性のドラマ的な発展もあまりしない。主人公の男女の心に映画が踏み入る事は最後まで無く、今回は脚本がやや甘かったように思う。主演女優の演技力不足も致命的。よくよく考えれば十分佳作と言える出来ではあるのだけど、城定作品には最上級を求めてしまう。
それでもそこかしこに漂うペーソスとユーモアは良い。全裸の男女3人が朗らかに並ぶ画はユーモラスで、歪んでいるのにどこかのどかな大人の夏休みといった感じの情緒が刹那に漂う。

大傑作「わたしはわたし」に続き美村伊吹の演技が巧みで、脇で光る。ずば抜けて人間臭いチャーミングさで、この人のお陰で映画が救われている。
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