このレビューはネタバレを含みます
宮沢賢治の小説をアニメーションの手法を使い表現しようとしている。
故郷の場面等の現実世界は、往年の、むしろ少し懐かしさすら感じるセルルックの手描きアニメーションを主として描かれる。おそらく、キャラクターを画面の中心に置くレイアウトや、キャラクターたちが動いているのを少し離れてfixで撮影するといった特徴も昔のアニメっぽいという印象を与える一因となっていると考えられる。少なくとも現在主流となっているカメラを意識した映像作りではないと言えるだろう。
現実世界の描き方とは異なり、幻想世界では3DCGや、フィルター等の撮影処理が多用される。それにより現実世界との違いが際立つとともに、情報量やスタイルの差によって不気味さが強調されている。エレベーターを登るシーンでは人形アニメーションも使用され、とても印象深い場面になっていた。
動きはいわゆるリアルを志向したものではなく、記号的であり、3DCG等で描かれる乗り物の動きも左右にゆっくり揺れるなど、極めて規則的であった。切り絵アニメーションを想起させるからか、そのような動きから寓話的な印象を受けた。
宮沢賢治ということもあり、難解で余白の多い物語ではあったが、終盤で突然ディスクの故障のように飛躍する場面など、余韻を残すシーンが多かった。
実際の東北の飢饉を元としている点や、震災のすぐ後に公開された点も様々考える余地のある作品であると感じた。