あくとる

愛しのアイリーンのあくとるのネタバレレビュー・内容・結末

愛しのアイリーン(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

心をかき乱され続けた137分。
強烈な一撃。
夕方~夜の回を鑑賞したのですが、その日は一晩中、心がざわざわしていました。
とにかくカロリーが高くてゲッソリ(心が弱ってるときには鑑賞しない方がいいかも…)。
素晴らしい作品でしたが、体力をかなり持っていかれたので、ニ度目の鑑賞はしばらく先になりそうです…笑





田舎の閉塞感・嫁不足、売春、人種差別・偏見…
へヴィーな社会問題の数々と"過激でしょうもない下ネタ"が同じ鍋にぶちこまれ、全てがごった煮にされた結果、最終的には極めて純粋な愛の物語へと見事に帰結。

岩男がアイリーンを金で買ったことも、アイリーンを心から愛したことも真実。
母親ツルの岩男への溺愛も、アイリーンへの差別も真実。
一方、悪役的な立ち位置のヤクザ塩崎が持つ親に対する思いや、他国の女性を食い物にする日本の男たちに対する怒りも真実。
全員が真実を語り、全員が間違いを犯す。
常識では正しいとされない登場人物たちが、観ている者の心を激しく揺さぶります。

ラーメンを食べたあと、田舎の街をふらふら話しながら歩く二人の何とも素敵なこと。
ヤクザ殺しを経て、ついに心が通じあった二人のセックスシーン。
セックスシーンでこんなに感動したのは初めてです。

演者は総じて素晴らしいのですが、何と言っても主人公の岩男を演じたヤスケンと、その母親ツルを演じた木野花さん、この二人の迫真の演技が全てを持っていきます。
皆さん既に言及されてますが、ヤスケンの死んだ目と話し方(息の吐き方)が逸品。
そして、基本的に口は悪いが、根底には深い愛がある昔ながらの気丈な母親ツル。
"息子への愛"を原動力にひたすらとんでもない行動を起こす姿はどこか憎めないのですが、一方でアイリーンへの酷い差別的扱いには本当に腹を立たせてくれます。

痴呆の父親が最期に作った思い出の椅子には、思わずジーンと来てしまいました。
長年連れ添った夫婦だからこその口の悪いやり取り。
"箱根"というワードがただの下ネタなのかと思いきや…というのが実に上手いですね。

吉田恵輔作品お決まりの回想シーン。
前作"犬猿"では最大の減点ポイントでしたが、今回はまんまと泣かされてしまいました。
ツルの過去のあんな姿を見せられたら、途方もない岩男への愛情にも納得せざるを得ないでしょう…
私の2018年ベストは"レディ・バード"のまま揺るがなさそうだし、つくづく自分は親子愛に弱いと認識。
(日頃親に迷惑をかけまくっている自覚が有るせいか…?)





しょうもない露悪な下ネタの連発は、コメディ要素の強い前半でこそ、話の勢いを増す作用を果たしていて最高なのですが、後半のシリアスさ・ドラマ性が深まる頃だと、物語のテンションを必要以上に乱してしまっていると感じる場面が何度かありました。

また、後半の重いドラマ部分に顕著ですが、感動的なシーンに必ずというほど"感傷的なピアノ"が加わるのは、はっきり余計です。
ラストカットの雪原でも、アイリーンの姿に岩男の「アイリーン、愛してるぞ(正確なセリフは失念)」という声を被せるのは確かに泣けるんですが、若干やり過ぎというかベタベタに感じてしまいました。
やはり、犬猿のときに感じた"感動過多"な演出は吉田恵輔監督の特徴であり、私の苦手な要素のようです。

以下は原作の問題と思われるところです(原作は未読なのですが、パッと調べた限りだとストーリーはかなり忠実なようなので)。
塩崎を殺した後に出てくるヤクザたちの嫌がらせが中途半端なまま終わるのが残念。
彼らの登場によって、バイオレンスな展開があると勝手に期待してしまった私も悪いのですが、中盤までの圧倒的な勢いに対して、後半が若干失速してしまった印象です。
精神的に追い詰められていた岩男が"木々に「アイリーン」と彫っていた"という表現には感動しつつも、愛情の可視化として少々安易に感じました。





ただし!
今回はそんな減点箇所よりも加点ポイントが圧倒的に多く、基本的には全面擁護したい気持ちです。
常にパンチのある作品を果敢に産み出し続ける吉田恵輔監督、次回作がとにかく楽しみです。