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5時から7時までのクレオのEyesworthのレビュー・感想・評価

5時から7時までのクレオ(1961年製作の映画)
4.5
【死を着飾る女性】

「ヌーヴェルヴァーグの祖母」ことアニエス・ヴァルダが脚本・監督を手がけたフランス・イタリア合作のドラマ映画。癌検査の診断を受けた女性の検査待ちの2時間をドキュメンタリー風に描き出す。

〈あらすじ〉
若く美しい歌手クレオ(コリーヌ・マルシャン)は、癌検査の結果を待っていた。リヴォリ通りからカフェ・デュ・ドーム、自宅からモンスーリ公園へとパリの街をさまよい歩くクレオ。心には迷信と恐怖が渦巻き、いつも通りに愛嬌を振りまくも、突然不安に駆られたり。恋人、仲間の音楽家、女友達、見知らぬ兵士など、様々な人々との交流を通じて、クレオはこれまでは見えなかった目の前の世界に気付く。そうして心の安らぎを少しずつとり戻した2時間後、医師から検査結果を告げられる…。

〈所感〉
アニエス・ヴァルダ監督初鑑賞。美しいパリの街がドキュメンタリー風に映し出されていて、「死の予兆」という題材もあってか、同じくフランス映画のルイ・マル監督『鬼火』を彷彿とさせられる。こちらの方が一年早いことに驚き。ただ、アプローチが全く違って『鬼火』では、徐々に死へと接近する感が高まっていったが、一方本作では、徐々に死から遠ざかるような感がある。死の欲動(タナトス)に駆られたアランと、生の欲動(コスモス)に駆られたクレオの行き着く先は一緒でも、本作には見渡す限り希望が残っていることに気づく。それは女友達かもしくは兵士の男がクレオに灯した最後の灯火だったのかもしれない。だから安らかに死に臨める。この5時から7時までの二時間は死の準備のための時間だったのだ。人はそう簡単に死を受け入れることはできない。武士のように生き恥を晒さず潔く死ねたら格好がつくが、どんなに無様でも最後の最後まで生きようと欲するのが本来の人間の姿である。逃げるは恥でも役に立つ。死の海に呑まれ必死で足掻く人々を我々は笑えない。もっと死はカジュアルであるべきなのかもしれない。彼女のファッション、身の振り方を見てそう思った。
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