野中知樹

ウトヤ島、7月22日の野中知樹のレビュー・感想・評価

ウトヤ島、7月22日(2018年製作の映画)
4.3
息づかいまで見えるワンカットと
腹に響く銃声の生々しさ

2011年ノルウェーで実際に起こった銃乱射事件をドキュメント風にワンカットで描いた本作。

まずは銃声の怖さが印象的だった。文字通り腹に響くその音が徐々に近づいては遠ざかり、またどこからとも無く響き渡る。そしてその後に続く悲痛な叫び声。目に見えない犯人の恐怖と緊張感のひとしおさは、映画館でなければ味わえないものだった。

また極力説明を排除した映像に無駄のない演出が加わり、現場の生々しさが表現されている。例えば、事件冒頭で主人公たちが逃げる中に1人倒れ込んだ男の影が一瞬映り込むのだが、その後に「死んでる人いなかった?」「やめてよ!」みたいなくそリアルな会話。観客も登場人物たちと同じ情報量だからこそ、そのパニック状態が否応なしに流れ込んでくるようだった。

生々しさでいうと、途中で出てくる少女の絶命の芝居がとてつもなくリアルだった。人の温もりのあった体から熱が失せていき冷えきっていくのだが、、、命の「揺らぎ」の中で絶命していく様をワンカットで見せられると、切なさに加え「人間ってこうやって死んでいくのか」と悪寒が走るような気持だった。

そんな72分間の銃乱射テロシーンだが、目の前で人が撃たれて血しぶきをあげる、みたいなゴア表現はほとんどない。しかし、主人公の後ろ1、2メートルにピッタリ張り付きながら息づかいまで感じさせるワンカットのカメラワークに、観客も現場に叩き込まれる。そのパニックと恐怖はどんなグロテスクな描写よりも脳裏に焼き付いてしまった。

NZの一件もあったが、被害者の恐怖のことについて考えるともいたたまれない。突然銃声に取り囲まれる状態は、普段の生活からは想像しきれない恐怖に満ちているのだと、この映画から少しでも実感できる。

現に先週の金曜にこの映画を観たが、まだふとした時に、その72分間の一場面がランダムに頭をよぎるのだ。
野中知樹

野中知樹