めしいらず

アイネクライネナハトムジークのめしいらずのレビュー・感想・評価

3.3
素直な好きって何だ。家族って何だ。家族になるって結局何なんだ。若い時、幼い時には判らなかったことが、ひと年取ってみるとふと腑に落ちる時がくる。人には何かにかこつけて背中を押して貰いたい、勇気をもらいたい時がある。そんな様子が頼りなく飽き足りなく見える時がある。でも後になって相手のあの時の気持ちに心を寄せてみると、案外見え方が変わっていることに気付く。人生経験がそれに気付かせてくれる。濃い関わりでは好きだった筈の部分がそのままある時から嫌いな部分にもなる不思議。人の中の好悪なんて表裏一体で見方次第なのだ。相手を悪い方の切り口からしか見られなくなるのは共にいれば普通だろう。それは両者の距離の近さ故である。最初にあったものが日々の中で次第に馴れて薄らいでいくのは致し方ない。でも今はただ好きがひっくり返っているだけなのだ。あの時に巡り合えたのがあなたで良かった。そう心から思えるまで関係を諦めないでいられるかどうか。人生の山も谷も共にいればある時にああこれが幸せだったのかと心から理解されるのだと思う。
伊坂幸太郎の小説が昔好きでよく読んでいたけれど、ある時からよく出来たお話とか、凝った設定とか、上手な語り口とか、お洒落な会話とか、技巧に走りがちな傾向が些か気になり始めてしばらく読まずにいた。でも(映画版ではあるけれど)本作には技巧に頼り過ぎない円熟味が加わっていたように思えて面白かった。家族や恋人などいくつかの小市民の組み合わせが関わり合う群像劇であるが、ほんの少しずつ描き足りない印象があったのが惜しい気がした。とまれこれは面白い。
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