Yuho

パラレルワールド・ラブストーリーのYuhoのレビュー・感想・評価

3.3
学生時代、電車の窓越しに恋した人が、ある日親友の彼女となって現れた。しかし、その彼女は自分の恋人だったはずの相手だった。

東野圭吾さんの原作も好きで読んでいます。正直初めて映像化の話を聞いたとき、「いや無理だろ」と思い超ハードル下げてたんですが、想像よりは良かったというのが率直な感想です。
批判気味のコメントも多少書きますが、原作好きの視点から観て「映像化、ありだな」と思った点数設定になってます。

さて、想像より良かったというのは、小説だと分かりにくい・想像しづらい場面が、映像化によって理解の及ぶものになったからなんです。原作を読んだのはもう大分前のことになりますが、初めて読んだときの「何処読んでるんだ私は」状態からようやく抜け出せた気がします。
ただ、上の感想を持つのは私のように原作読みづらいな~って思った人に限るかもしれないというのも補足しておきます。映画の場面の切り替わりが早く、初見の人からしたら「なんだこれ」状態になる気もするので…

個人的に気になったのはBGMの入れ方です。鑑賞時の私の気分とかももちろん関係してくるんだと思いますが、妙にわざとらしいBGMが気になって所々内容が入ってきませんでした。よく場面転換でBGMぶつ切りにするのってあるじゃないですか。あれって本当に印象に残るシーンで使ってほしいんですけど、108分という少し短めの、狭い世界での話のなかで3回ほどそういう切り替わりがあったんですよね。「くどいな」って思うと同時に、一つ一つの場面の強調にも失敗しているように感じました。全体を通して声を張る演技は少なく、戸惑いと疑念の中で主人公が言葉を選びながらもしくは零れ出るように呟くような台詞が多いので、割と静かな雰囲気なのですが、その中でBGM邪魔だな、と感じたのはもしかしたらその音量が大きかったとかあるのかもしれません。もしかしたら私の気にしすぎかもしれないけど。

にしてもこの作品は題名の付け方がもったいないな~と初めて読んだときから思っていました。めちゃくちゃロマンチックなラブストーリーみたいなタイトルなのに、サスペンスのようで、でもラブストーリーとして宣伝される。宣伝文句に興味を持った人は絶妙な肩透かしをくらいそうな主軸なんですよね。
大体東野圭吾さんの作品は100%SFなものってほぼなくて、何処かしらで現実的な問題に絡めてきたり、科学的な因果関係が発生したりするんですよ。流石、元エンジニアとでもいうんでしょうか。だから「パラレルワールド」なんていかにもSFな題名をつけるなら、もう少しロマンス色強めの作品にしちゃえばいいのに、と常々思っています。シンプルにタイトルからすると東野作品らしさがないというか、毛色の違う作品のような気がしません?あくまで個人的な感覚ですけどね。
私は東野圭吾作品が大好きで、小さい頃から小説読み続けてほぼ網羅しているんですが、この作品については圧倒的な構想と言うには足りない作品だと思っていまして、『祈りの幕が下りる時』や『マスカレード・ホテル』の時のような「内容がいいもんね!」みたいな感覚は薄いです。それでも先に述べたように映像化によって分かりやすさは増しているし、映像として悪くなかったとも思います。

複雑な切り替えを108分に落とし込んで無駄に長くしなかったところは評価できます。2時間の尺にしても濃度が却って薄くなりそうなので。作品自体が複雑なようで案外単純なものなので妥当なのかな。東野圭吾作品を観たいって方は『人魚の眠る家』とか『祈りの幕が下りる時』の方をオススメしたいですけど、観るのを特別止めもしません。役者さんの演技は全体的に好きだし、やっぱり染谷さんはいい俳優さんだと改めて思いました。
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