ジジイ

ともしびのジジイのレビュー・感想・評価

ともしび(2017年製作の映画)
4.2
夫の収監により日常を破壊された老いた妻の、日々強まってくる孤独と焦燥に息が詰まりそうになった。相手がいる場面でもカメラは基本シャーロットランプリングの能面のような表情をメインに捉えているので、これはもう彼女のひとり芝居と言ってよい。90分の尺を台詞に頼ることなく、その佇まいだけで成立させるこの女優の凄まじい力量に改めて感服した。








以下ネタバレです。







夫を告発したのは息子だろうか。(息子も被害者なのか?)男の子に向けられた夫の歪んだ欲望に気づきながら、妻は恐らく見て見ぬふりを続けていたのかもしれない。(息子はそれを知っているから母親までも拒絶するのか?)必死に日常と平静を保とうとする姿が痛々しくて見ていられなかった。演劇サークルの台詞や地下鉄の男女の言い争う言葉などが、彼女の心の声を代弁していて上手い。箪笥の裏に隠してあった証拠の写真を見つけた時の表情。息子を許さないと言う夫に、とうとう引導を渡す妻。その直後のカットで怒りに震えながら食器を手荒に扱う描写。全てが繋がっていて見事。浜に打ち上げられて息絶えた鯨を、呆然と見つめる表情にも胸が締め付けられた。ラストの階段の長回しで彼女の絶望を極限まで高めたところで、地下鉄の扉が一瞬その姿を完全に隠すなど、息を呑むような演出に圧倒された。

追記 「ともしび」という日本語タイトルやポスターにある「生きなおし」の文字から、ラスト地下鉄で自殺を図ろうとしたものの、ギリギリ思いとどまったようにも思える。消えそうで消えない炎が彼女の選択と未来を暗示しているかのようだ。
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