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21世紀の女の子のmのレビュー・感想・評価

21世紀の女の子(2018年製作の映画)
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まず山戸結希監督の企画趣旨には全面的に賛同したい。唯我独尊のイメージだった山戸監督がこうしたフェミニズムの横の連帯を先導していくとは想像していなかった、これは本当に嬉しい驚き。こういう試みは今後も続けてほしい。

しかし、選ばれた監督の面子がどうにも心許ない(観る前はこの監督の中だと首藤凛監督くらいしかまともな監督がいないのでは・・と思ってた)。そもそもの問題として、今の日本インディーズ映画界で評価される女性監督・作品がある一定のトーンで定まっている、つまり『サブカルおっさん達が好きなサブカル的「少女」「女の子」感性の監督・作品が評価される場合が多い』という事の問題点がこの企画自体に出ている気がする。おっさん達が『アイドル監督』を求めているというか、結局まだまだおっさん達の掌の上で転がされているのでは・・。


ここから先は作品それぞれへの感想です。上映順に書いていきます。上映順もネタバレだから知りたくないという方はここから先は御遠慮下さい。














○安川有果監督「ミューズ」
写真を撮る・撮られる関係の交歓、その感情の移り変わりの過程、そのエロスみたいなものを全てモノローグで説明してしまうのが勿体ないし、肝心な2人の心をもっと筆圧強く描けたのではと思う。でもこの物語には興味を惹かれた。
石橋静河と中村ゆりが素晴らしい。
『女が自殺するなんて幻想』という言葉は印象に残る。

○竹内里紗監督「Mirror」
続けて同じ写真題材の短編。写真を撮る・撮られるってやはりとても美味しい題材なんだよね。
ワンシチュエーションに絞った事は8分の短編映画の作り方として正しい判断。ただ、全体的に台詞=言葉が上滑りしていると感じた。瀧内公美も朝倉あきも、もっと良い女優のはず。不実な愛にも芸術家の業にも踏み込めていない。

○東佳苗監督「out of fashion」
このオムニバス映画の共通テーマであるはずの『セクシャリティあるいはジェンダーのゆらぎを感じた瞬間が映っていること』はどこいった?とは思うが、これはこれで監督の自伝的作品?としてはいいのか?描くべき事は描けていたと思うけど・・うん・・正直かなり場違い感はある。
あと写真にモノローグ被せる山戸監督ぽい手法、この東監督編と後の松本監督編等でも使われててみんなモロに影響受け過ぎでしょ・・

○山中瑶子監督「回転てん子とどりーむ母ちゃん」
この監督の映画は初見だけど、どうやらこの人は天才らしい。またしてもこのオムニバスのテーマはほぼ無視だが、とにかく正体不明の独自の強い衝撃があって心奪われた。これは一体・・妙にクセになる。この監督の「あみこ」、観てみたいな。

○枝優花監督「恋愛乾燥剤」
中途半端にマンガチックな演出の中、もはや何を描きたかったのかすら分からない。それっぽくまとまってはいるが空虚だった。

○金子由里奈監督「projection」
またしても写真を撮る・撮られる関係性の映画だが、同じ題材の前2本よりもこの作品の方が撮る・撮られる事の心のやり取り
・交歓を描けていたと思う。これは素直に良い作品だった。伊藤沙莉、土居志央梨も良い。

○首藤凛監督「I wanna be your cat」
オムニバスの共通テーマ?知らねぇよんなもん!!的なノリで強気で繰り出されるヌルッとした愛憎?劇、ある女の心情の情けなくて赤裸々な吐露。これまでとは一味違う狂い方の首藤映画のテンション。この先の首藤映画はどこへ行くのかが気になる。

○夏都愛未監督「珊瑚樹」
感情の上っ面だけをなぞるような浅い感じの中で、暗い感情を見せる堀春菜だけが光る。

○松本花奈監督「愛はどこにも消えない」
山戸結希と岩井俊二のコピーの雰囲気に(この辺りやはり本当に世渡りが上手い)、それっぽいだけの時間軸テロップ、松本監督らしいオヤジっぽい価値観の古臭さが合わさる。ぱっと見がとてもよくまとまっているだけで綺麗な表層の下には何もない、松本監督らしい出来。明らかに山戸作品を意識し過ぎ。

○井樫彩監督「君のシーツ」
『ジェンダー・セクシャリティのゆらぎ』を幻想的に描いた一編で、実は一番真面目にこのオムニバスのテーマに取り組んでいる感じがある。つけ髭の演出はちょっと安直なんじゃないかという気もしたが、画で語る演出で映画的に完成された作品で良かった。表情で見事に物語る三浦透子も素晴らしい。

○ふくだももこ監督「セフレとセックスレス」
冒頭のお茶の演出は意味不明だし(いや『意味』は分かるんだけど)、その後の歌と照明の演出も寒かった。ストーリーは描けているのだけど心情の動きが浅いので筋書きをなぞるだけに留まる。
黒川芽以は相変わらず良い。
発声が良くないのか録音が良くないのか、男優の台詞が聞き取りづらい。

○坂本ユカリ監督「reborn」
台詞とモノローグの山戸的乱打で何かを語った気でいるが、実際は何も語れていないと思う。言葉をぶつける松井玲奈に対して、男優の存在感のか細さがあまりに心許ない。

○加藤綾佳監督「粘膜」
正反対の女性2人のセックスを巡るスケッチ。8分間では色々と足りていない感はある。「青い春」スタイルで煙草の火をくれる日南響子は他の人にないさっぱりした色気とタフな格好良さを漂わせ、久保陽香は目の芝居が印象に残る。作品の印象は弱いが2人の女優の印象が強い。

○山戸結希監督「離ればなれの花々へ」
山戸作品らしい言葉と細切れの編集と音楽の怒涛の乱反射による宣誓映像。相変わらずの難しさとエネルギッシュなパワーの凶暴な爆発。この圧の強い個性の前ではあの唐田えりかさえ存在が霞んでしまう(てか予告にあった唐田さんが泣くクローズアップのショットはどこへ?)。
この人は次の大林宣彦になるんだろうな。

○エンディングアニメーション
山戸編を補足し、オムニバス映画全体を綺麗にシメてくれるアニメーション。エンディング曲が大森靖子というのは完全にこれしかない『分かってる』チョイス。この曲好きです。



全体を通して観ると、全ての作品が『女の子』という訳ではなく『おんな』だったり『女性』だったり色々で、その辺りの多様さは少し感じられて良かった。全体の半分くらいがちょっとな・・という出来の作品だったのは残念だったけど。
先述した通り、こういう試みは続けてほしい。次はもっとファッション性無くした泥臭いやつとか・・でもファッション性ある方がみんな観やすいのかな。
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