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私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてくださいのmのレビュー・感想・評価

4.7
鬼才・城定秀夫監督、遂にメジャー作品!
欲を言えば本当は本人脚本のオリジナル作品が良かったのに、原作付きの続編でしかも女性の主体性をこそ讃える城定映画の素質と合わなさそうな題材か・・とかなり残念にも思った(そう言いつつも亀井監督好きなので前作も割と好き)。

しかしそこは流石の城定映画、女が男に従属するだけの安易な構図に陥りそうで陥らない。

ヒロインを調教する側の男達には前作の板尾さんのようなもったいぶったカリスマ性も、前作の主人公のような分かりやすい人間的な成長のようなものも無く、ただただひたすら弱くてしょうもない。
一応主人公としてヒロインを調教する目黒は『調子に乗ってプレイボーイぶっていたらとんでもない事に巻き込まれてしまった』といった感じで、実の所調教が始まって以降は最初から最後まで主体的に行動していない。『ご主人様』という呼び名に似合わず狼狽し憔悴しきっていく様が良かった。
この役を演じるのが毎熊克哉というのが効いている。ぱっと見は硬派な昭和のアウトローの香りのする役者だが、「全員死刑」でもそうだったようにこの人が本当に活きるのは情けなさや弱さを表出する瞬間だ。

彼をコントロールしている夫の方も、実の所自分の為ではなく彼女の為にやっているのかも、と仄めかす。彼個人の感情として最後の最後に復讐をやりそうになるが結局やらない。この人は優しい人なのだと思う。
前作の板尾さんポジションながら、全く違う人物造形で終始穏やかに柔らかく演じ切った三浦誠己が流石上手い。


彼らと相対する女性達が実に良い。

冒頭から目黒は何となく婚約者からの圧を感じている。まだまだ遊んでいたい目黒を彼女が人生の現実に落ち着かせようとする。程よくトゲのある、真っ当な人である婚約者の人物造形が良い。演じる百合沙も「蠱毒」の時の報われなさが嘘のように今回は魅力的。

そして映画全体を影で支配していくのが明乃だ。
最初はあまり冴えない様子だった彼女だが、徐々にエロティックに、やがては獰猛になっていく。一気に彼女のスイッチが入るのは、目黒が家にやって来るシークエンス。ここでの行平あい佳の芝居の変わり様、弾けっぷりは凄まじく、ここから一気に映画が加速する。監視カメラへの彼女の目配せも鋭い。このシークエンスには感嘆した。

本当の『ご主人様』は誰なのか?家のシークエンスを経た後の素晴らしい終盤の中で、この映画の真の構造が明かされていく。



中盤はややダレるが、基本的に城定映画らしく全編のテンポは軽快。お馴染みの並走ショットは今回も健在(今回は歩きでしたが)。
いつも低予算と過酷なスケジュールで闘ってきた城定組スタッフが、いつもよりは余裕のある環境を得て色々と技術的な試みをしているのも良い。画の美しさにはスタッフの歓びも見えて、こちらもなんだか嬉しくなる。


セックス・シーンは極めてエロティックだが、決して女性=女優に負荷を掛けるような、女性を消費するようなものにはなっていないのが素晴らしい(まあガチョウの所はいらなかった気もするが)。
セックス時の舌と口の演出(そしてその反復)が感情や物語を表現する演出として良くて、エロティックな作品で鍛錬を積んできた監督の力が発揮されている。


「渚のシンドバッド」スパンキングはとんでもないシュールっぷりで一周回ってユーモラス。そして小沢和義神父には笑わせてもらいました。


ラスト、キレ味鋭い演出でこの映画は見事に幕を閉じる。これ一本で十分完結しているが、この続きの三作目では懲りない目黒がまた半端な覚悟で女達に手を出して、今度こそ女達に跡形も無く完全に喰われてしまうだろうからそれはそれで愉しみにしている。

そして主題歌がまさかのボンジュール鈴木による「渚のシンドバッド」カバー!プロデューサーか監督、どちらかが「聖なるもの」を観たのだろうか・・。甘い歌声が映画の世界観を綺麗に補完する。
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