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キャスティングのtthkのレビュー・感想・評価

キャスティング(2017年製作の映画)
4.5
抜群におもしろかったです。ファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』をうる覚えのまま鑑賞しましたが、とても楽しめました。複数の視点をもって鑑賞するとよいように思いました。とりわけ以下の二つが大事だと思いました。

(1)ファスビンダー映画をどのようにリメイクするか。
これはペトラ・フォン・カントをどのように解釈したら良いか、という点なので、それをもう一度見直す必要があると思いました。が、やはり男女の恋愛関係において、愛が依存へと変異するところをファスビンダーは見抜いていたのではないかと思います。この愛人への依存が、本作では役職、与えられた役への依存に転化されてるところがミソだと思います。
(2)俳優とはなにか。
題の通り、ある役を務める俳優を決めるオーディション(キャスティング)がこの映画のメインモチーフとなっていますが、そのオーディションの際に、演じる側も、それを評価する側もある特定の評価軸を持って演じて/見ています。そうすると、当然そもそも「演じるとはなにか」という問いが浮上します。
その点で、ゲルヴィンの演技にはいくつもの層があります。[1]最初は本来ありうるであろう俳優の代わりとして演技をします。[2]次に、キャスティングされることが決まり、少し誇大になったゲルヴィンが我を通しながら演じます。[3]そして最後に、キャスティングから外され、演じる人が決まっている役を演じます。
私にとって最大の見せ所だと思ったのが[3]でのキスシーンです。
そこで踏まえて置きたいことは、ゲルヴィンが俳優を辞めたにも関わらず、自身が演じたい役に一度決まって喜んでいたこと、そしてそれを外され残念がっていたこと、の二点です。
つまり、あのキスシーンというのはファスビンダー作品のリメイクとしてゲイにしても大丈夫、ということではなく、ゲルヴィンのあの役への依存を表しているのではないかと思いました。
そして、原作でのセリフが見事にゲルヴィンそのものの心境にマッチングし、いくつもの層が生じています。自身の心境を、過去の名作の名台詞を拝借して示す、ということが行われているように思いました。この原作のセリフと本作で登場する人物の心境とをマッチングさせる手法が本作ではとても多く見られ、鳥肌が立つばかりでした。冒頭で、パートナーがいるにも関わらず、パートナーではない人(しかもその人もパートナー持ち)に「私は死にたい」と言わせるシーンも印象的でした。
とどのつまり、ファスビンダー作品をリメイクする場面を撮りながら、ファスビンダー作品をリメイクする、という大技をやってのけているのが本作であるように思いました。とてもおもしろかったです。
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