MasaichiYaguchi

止められるか、俺たちをのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

止められるか、俺たちを(2018年製作の映画)
4.0
2012年に逝去した故・若松孝二監督を題材に、若松プロダクションをはじめ監督に所縁のある人々によって製作された本作は、監督に対する愛だけでなく映画に対する愛、そして何者かにならんと監督の門下に入った若者たちの熱き青春が、1960年代末から70年代初めの激動の時代と共に描かれる。
当時の私はローティーンで、本作に出てくる全共闘、東大安田講堂事件、三島由紀夫の割腹自決等のニュースに対して”別世界“の出来事ぐらいにしか捉えていなかった。
本作は戦後の日本で最も若者たちが熱かった1960~70年代の青春群像劇ではあるが、必ずしもノスタルジー物として描こうとはしていない。
この映画の狂言回しである、新宿のフーテン上がりで若松プロで助監督となった吉積めぐみの視点を通して、若松孝二という反権力、反権威、不屈のアナーキストである監督のカリスマ性に惹かれて集まった灰汁の強い若者たちの葛藤や挫折、そして苦悩を浮き彫りにしていく。
そして“抜粋”として登場する当時若松プロが手掛けていたピンク映画や〈性〉と〈暴力〉をテーマにした作品の製作に、女を捨てて携わっていたヒロインがどんどん追い込まれていく様子が胸が締め付けられるようなタッチで描かれる。
当時と現代では「時代の空気」が違うかもしれないが、政府が喧伝する好景気とは裏腹に閉塞感溢れる社会で何者かになろうと足掻いている若者の心情や姿は普遍的だと思う。