黄金綺羅タイガー

騙し絵の牙の黄金綺羅タイガーのレビュー・感想・評価

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
3.3
褒め言葉として、この映画はまるであの監督のあれのようだと思うけれども、それは敢えては言わない。
言ったら勿体無いし、言いたくない。
映画は観るものでもあり、体験するものでもあるからだ。
だから興味がある人には、自分で観てくれば? 以上のことは言えない。
しかしそれはどの映画にも当てはまることだし、それにそれを言ってしまってはレビューを書く意味はない。

ただこの映画の面白さがレビューを書くことで損なわれるのは悲しいので、内容について事細かにあれやこれやとは書かないが、自分のための備忘録として多少感じたことを書き記してはおきたいと思う。

吉田大八監督の映画を観ると毎回思うことだが、吉田大八という監督は作品自体の映画としての価値、自身の作家性、原作の雰囲気を映画で再現すること、日本向けのエンターテイメントの作り方、資本家が映画に要求するもののバランスの取り方が大変上手いように思う。

また役者の個性を的確に掴んで配置し、それを使いこなすのが大変うまい。
松岡茉優のいつ観ても安心できる堅実な演技と北海道が産んだ大スター、大泉洋の重厚さと軽快さを場面によって切り替えながら表現するコメディスターとしての素晴らしい手腕。
それを引き立たせるための佐藤浩市の存在感。
國村隼、佐野史郎、小林聡美、木村佳乃らの、料理を引き立てるためにしっかり利かせたスパイスのような、彼らの持ち味を活かしつつも決して邪魔をしない演技。
ないとあるのとでは全く世界が違う、フライドポテトに添えられたとても瑞々しいパセリのようなリリー・フランキー。
華のある池田エライザのオブジェクトとしての優秀さ。
どの人をとっても、彼ら以上の適任者はいないのではないかと思わせられる。

また画面という限られた四角い枠のなかで密度のコントロールがとても上手い。
とくに上手いと思ったのは画面の密度のあげ方である。
漫然とオブジェクトを配置するのではなく、そこにあることで意味を持つものを意味のある映し方で的確にレイアウトし、その時々の状況や空間の雰囲気を表現するのが上手い。
また背景にアーキテクチャーの整然とした美しさを入れ込むことで、画面の平面構成を美しくレイアウトしつつ、物語が展開されている都会のランドスケープを表現している。
密度が高いからといって、決して息苦しさは感じさせない 。
それはカットごとによる足し算と引き算が出来ているからだろう。
広い空間を見せるときは無駄な情報を省いたり、クローズアップでオブジェクトや役者の表情を映し出すことでそこに感情や意味を乗せたりなど、観せたいもののためにシーケンスの密度を意図的にコントロールしている。

この映画はあくまでエンターテイメント映画だが、どのカットも密度、長さ、カメラワーク、どれをとっても良く作り込まれた映画としての映画としても価値の高い作品であると思う。