竜どん

騙し絵の牙の竜どんのレビュー・感想・評価

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
3.0
右肩下がりの出版業界自らの雑誌を守るため、変わり者編集長と出版社経営陣の騙し騙され狐と狸のばかし合いそして勝利のカタルシス!みたいな展開を期待していくと少々肩透かし。ビジネスドラマの趣が強い。
「騙しあいバトル」という鑑賞者の期待する要素が薄味、主人公速水を含め劇中人物の行動は皆常識の範疇、キャスティングは確かに曲者揃いといった感じなのだからもっと非現実的にはっちゃけてても良かった気がする。

コンゲーム的作品の真骨頂は、人を騙すことに特化した卑劣漢が逆に騙され地団駄を踏むのを見る胸スカ、もしくは騙す側も騙される側も結果的に幸せになるラスト。の二択ではなかろうか。昔観た薬師丸ひろ子主演『紳士同盟』にて詐欺師役小林桂樹の台詞に「相手に詐欺に遭っているとは最後まで気づかせてならない。相手が気持ち良くなった分の報酬をいただく。」というのがあり、コンゲーム的作品の真理を正にそこに感じた。反して本作の騙される側機関車東松も常務取締役も薫風編集長もただ己の仕事に誇りをもって挑んでいる人間達であり、そこに悪意は感じられない。ただ一方的に速水の仕掛けにはまり彼等が自らの居場所を失う展開には共感できず今ひとつノリ切れなかった。その仕掛けにしてももう2重3重のどんでん返しが欲しかったのも事実。速水が窮地に陥る場面も仕掛けの一部かと思ってたらあっさりスルーで含みは無しだったのも残念。
テンポはいいし豪華俳優陣も適材適所で良い演技をしてる(無駄使い感もあるが)。人生における「働く」ことや「仕事」の意義を問うビジネスドラマをエンタメ成分多めに描いた作品として見れば非常に良質で面白い一本なのだが、いかんせん求めるものが違ったかな。
ある意味宣伝に完全に「騙され」ましたねw

追記
本作に限らず台詞の切り取りは勘弁して欲しい。作品の方向を決めかねないパワーがあるふたつの台詞が別々のシーンのものなんて唖然。
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