海老

若おかみは小学生!の海老のレビュー・感想・評価

若おかみは小学生!(2018年製作の映画)
4.0
我が娘は、アニメなら割となんでも興味を示して飛びつこうとする癖がありまして、明らかに子供向けではないだろうと思しきものや、シリーズ物にも手を伸ばそうとするので時々困ります。ですが、ひとまず受け入れてみたことで思わぬ縁に巡り合う事も勿論あって、本作がまさにそう。

まるで、ふらりと立ち寄った温泉宿に至福の時を見たかのような。

まず、原作が長編であることも、テレビアニメが全24話あることも、言われなければ気づかなかったほどに「映画」という尺の中で物語を魅せてくれる手腕が素晴らしい。テレビシリーズや原作ファンの為だけではなく、物語そのものに触れさせてもらえた感覚を覚える。

何故、小学生が若女将なのか?
それは、事故で両親を亡くした事で、祖母の営む老舗温泉宿が身寄りとなったため。可愛らしい絵柄に似つかず重い運命を課せられた小学生「おっこ」に驚くけれども、温泉宿に棲み付く少年の地縛霊「ウリ坊」にそそのかされて、女将見習いに仕立て上げられる様子は和やかで安心する。

基本線は、小学生が温泉宿の若女将の修行を右往左往しながら頑張るお話。
取り巻く個性的なキャラたちは少々憎たらしいところもあるけれど、よくよく見れば良い子ばかりで温まる。同級生も、地縛霊たちも。高飛車の令嬢という絵に描いたような嫌味な女の子さえ、自前の鯉登が風に流された際に反射で出る言葉が「誰かにぶつかったら大変!」であるあたり、良心が湧き出ている。

そうはありつつも、両親を亡くしたおっこに降りかかる試練は、大人にも耐えられない程に、あまりにも凄惨。
小さい体を震わせて、それでも最後には背筋を伸ばして、顔を上げて真っすぐと淑やかに前へ進む。
その凛とした立派な立ち姿に、若女将を名乗る表情に、何故だか滲む視界越しに応援を送った。

直向きな頑張り屋、おっこの視点で描かれる成長は、別れと出会いが入り交じり、季節を綴るように一期一会を慈しむ。
生きること、働くことは、時々どうしようもなく人を輝かせる。
それは子供であっても、同じことなんだな。

温泉は至上の癒しを与えてくれるもの。
「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない。全てを受け入れて癒してくれる。」
それを体現するかのような、心遣いと情景に、受け入れられ、温もりを貰い、洗われるかのような感覚を覚える。


鑑賞後、涙を誤魔化すために、なんとなく娘を抱きしめた。
不思議がる娘に、「湯冷めしないように」なんて、嘯きながら。
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