ジャック

ピータールー マンチェスターの悲劇/ピータールーの虐殺のジャックのレビュー・感想・評価

3.4
 1815年ワーテルローの戦いの4年後に起こった民衆虐殺事件があったこと自体、マイク・リー監督自身も知らなかったという。歴史からかき消されようとしていた事実をこのように実体化することの意義は大変なことだ。制作に向けての取組には資料収集と想像力、時代検証や映画にするための人物像の構築など相当な時間と労力が必要だったのではと思うのだが、こうして見てみると、きめ細かく自然な描写に驚く。それぞれの人物像を見ても、権力側、手工業から工業化へと移行する中で農民や労働者の意識や行動も幅がありその捉え方が、冷戦構造を経た今に至っても新しい視点を感じるところがある。

 平和的な集会が義勇軍や軍隊の導入により、虐殺が始まる。ここが、映画の中心部分となる。自らの手を汚すことなくグラスを片手に軽騎兵隊の導入直前まで法的な正当性を得るための工作を続ける権力者と土ボコリが舞う中騎兵隊の刃から逃げ惑う群衆との対比、記者たちがこの虐殺事件の報道を話し合っているシーンとジョージ4世が治安判事たちの“平和を維持してくれた功績”に乾杯するシーンの対比、いずれも事実に基づくものだ。

 参政権を求めるために命を奪われてきた人々の姿を見つめながら“今”投票しない人が半数もいるこの時代をどう考えるべきなのだろうか。
ジャック

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